本研究の目的は、光エネルギーを用いて常温で水を分解し、水素ガスを産生させる新しいデバイスの基盤を構築することであった。常温での水の分解は、容易ではない。しかし、光エネルギーと生物酵素の融合によってそれを実現させようとするものである。 光エネルギーを電子に変換するためには、酸化チタンを用いる。また、電子を捕捉してプロトン還元を起こさせるために、窒素固定菌のニトロゲナーゼを反応中心とすることを想定した。本研究では、この酵素をStreptomyces thermoautotrophicusという放線菌の一種から調製した。ニトロゲナーゼは、窒素分子を還元してアンモニアと副産物として水素を産生する酵素である。 本菌は、65℃、酸素共存下で一酸化炭素を唯一の炭素源として生育し、かつ空気中の窒素分子を還元してアンモニアを合成し、窒素源を得る能力がある微生物である。つまり酸素耐性のニトロゲナーゼを利用することで水素産生の持続性が期待される。 ニトロゲナーゼ系については、全て大腸菌組換え酵素とすることにした。この系には、St1とよばれる3つのタンパク質分子からなるものと、St2とよばれるひとつのタンパク質分子からなる。合計4つの遺伝子が関係し、これらをすべてクローニングし、大腸菌に導入し、大腸菌菌体内で合成させることに成功した。St2タンパク質については、酸素ラジカルの分子から電子を奪う活性をもつSOD活性を有した状態で調製することが可能となり、酸化チタンに紫外線照射した際に産生する酸素ラジカルを除去する活性を有することが分かった。St1タンパク質については、タンパク質として合成することは可能であったが、水素ガスを産生させる活性を持たせることは現時点では実現していない。 今後は、この系の問題点つまり活性型のSt1の構築法を模索し、常温での光水素ガス産生を目指したい。
|