研究課題/領域番号 |
23658100
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
入江 一浩 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00168535)
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研究分担者 |
柳田 亮 香川大学, 農学部, 助教 (10598121)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ブリオスタチン / プロテインキナーゼC / 発がん促進物質 / フサコケムシ / ホルボールエステル / 海綿 / ラン藻 / Epstein-Barrウィルス |
研究概要 |
細胞内情報伝達の鍵酵素であるプロテインキナーゼC (PKC) アイソザイムの一つであるPKCδは,抗がん剤の標的酵素として注目されている.海洋天然物であるbryostatin 1 (bryo-1) は,PKCδのC1ドメインを標的とする副作用の少ない抗がん剤として期待されている.しかしながら,bryo-1の天然からの単離収率は極めて低く,化学合成にも多段階を要するため,安定的な供給は困難な状況である.本研究では,本研究代表者らが開発したPKCδ C1ペプチドを利用して,bryo-1に代わる新規PKCδリガンドを海洋生物資源から探索することを目的としている.これまでに,PKCδ結合活性を指標として系統的なスクリーニングが行なわれた例はなく,PKCδアゴニストのみならずアンタゴニストが発見される可能性がある. 日本産の海綿,ラン藻,コケムシ抽出物(OPバイオより供与された約200検体)のPKCδ C1ドメイン結合活性を,トリチウム標識phorbol 12,13-dibutyrateの特異的結合の阻害度によって評価した.その結果,日本産フサコケムシに顕著な活性を認め,福岡県今津で大量に採取したフサコケムシ(湿重量6 kg)から6種のブリオスタチン類縁体(0.3ー2.3 mg)を単離同定し,本スクリーニング系が機能することを確認できた.ブリオスタチンC環部C20位における構造活性相関を検討する目的で,ブリオスタチン4, 10, 14のPKCδ結合能及び活性化能を評価したところ,C20位エステル基は,これらの活性にほとんど寄与していないことが判明した.また,抗発がん促進作用をEpstein-Barrウィルス早期抗原誘導阻害試験により評価したところ,いずれも高い活性を示した.一方で,海綿抽出物にもPKCδ結合活性が認められたものが複数あった.来年度はこれらの活性成分の同定を行なう.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,PKCδ C1ペプチドとトリチウム標識phorbol 12,13-dibutyrateを用いたPKCδリガンドのスクリーニング系が,海洋生物の抽出物において機能することを確認することができた.同時に,ブリオスタチン類のC20位における構造-活性相関を検討し,本部位への置換基導入が各種活性を低下させないことを明らかにした.これらの研究成果を,Biosci. Biotechnol. Biochem.誌に投稿したところ,2月上旬に掲載が決定したところである.以上により,本年度の研究目的はほぼ達成できたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,PKCδC1ペプチドとトリチウム標識phorbol 12,13-dibutyrateを用いた独自のスクリーング系を用いて,新規PKCδリガンドの探索を進める.昨年,複数の海綿抽出物に活性を認めているので,来年度は海綿に焦点を絞って研究を行なう.東京大学生命農学研究科の松永茂樹教授は,500種を超える海綿抽出物のライブラリーを保有されているので,松永教授に試料をご提供いただく.今年2月に松永先生の研究室を訪問し,研究計画に関してディスカッションするとともに,スクリーニング試料を分与いただいたところである.さらに,OPバイオファクトリーからは,各種ラン藻の培養液を供与いただき,同様にスクリーニングに供する.
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品費の主なものは,単離精製用HPLCカラム,有機溶媒,ならびに生物活性試験用試薬類である.その他,研究成果を発表するための旅費として使用する.なお,設備備品の購入予定はない.
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