研究概要 |
細胞内情報伝達の鍵酵素であるプロテインキナーゼC (PKC) は,抗がん剤の標的酵素として注目されている.海洋天然物であるbryostatin 1 (bryo-1) は,PKCのC1ドメインを標的とする副作用の少ない抗がん剤として期待されている.しかしながら,bryo-1の天然からの単離収率は極めて低く,化学合成にも多段階を要するため,安定的な供給は極めて困難である.本研究では,本研究代表者らが開発したPKC C1ペプチドを利用して,bryo-1に代わる新しいPKCリガンドを海洋生物資源から探索することを目的としている.これまでに,PKC結合活性を指標として系統的なスクリーニングが行われた例はなく,PKCアゴニストのみならずアンタゴニストが発見される可能性がある. 昨年度,PKCδ C1ペプチドとトリチウム標識phorbol 12,13-dibutyrateを用いたスクリーニング系によって,bryostatin類が単離できることを確認した.そこで今年度は,本評価系を用いて,約600種類の海綿や海洋微細藻類のスクリーニングを行った.海綿試料は,東京大学生命農学研究科の松永茂樹教授より,また微細藻類はOPバイオファクオリーよりご供与いただいた.その結果,海綿Theonella swinhoeiのエタノール抽出物に顕著な活性が認められた.そこで,沖縄慶良間産のT. swinhoei(湿重量1.6 kg)の酢酸エチル抽出物を,PKCδ結合活性を指標として各種クロマトグラフィーで精製した結果,bryo-1に匹敵するPKCδ結合能を示す化合物が極微量含まれていることが判明した.1H NMRにおいて,bryo-1に特徴的なシグナルが複数認められたが,これまでに単離されたbryostatin類とは一致しなかった.一方,海洋微細藻類の中では珪藻類の抽出物に有意な活性を示すものがあった.
|