研究課題/領域番号 |
23658101
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
林 英雄 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (30128772)
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研究分担者 |
甲斐 建次 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (40508404)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | クオラムセンシング / アシルホモセリンラクトン / グラム陰性菌 |
研究概要 |
クオラムセンシング(QS)は、細菌が化学シグナルを介して協調的に振る舞うメカニズムである。グラム陰性菌ではアシルホモセリンラクトン(AHL)がそのシグナルとして機能している。QS は細菌の病原性と密接に関連していることから薬剤のターゲットとして注目されている。そこで、アンタゴニストとは異なる手法で QS を阻害する方法、すなわち AHL 生合成阻害物質の創製を目指し研究を進めた。 平成 23 年度の主要な目標は、AHL 生合成中間体アナログをできるだけ多く化学合成し、その活性評価を in vivo で行うことであった。これまでに約 30 種の AHL 生合成中間体アナログを化学合成し、グラム陰性細菌(Sinorhizobium meliloti と Burkholderia gulumae)における AHL 産生量への影響を調べた。その結果、0.1 mM とやや濃度が高い条件下ではあるものの、AHL 産生量を 50% ほど阻害する活性を有するアナログ体を 2 種見出すことができた。生合成中間体アナログで AHL 産生を阻害できた例としては世界初である。平成 24 年度の計画である活性アナログ体の構造展開についても少しではあるものの検討に入ることができた。また、B. gulumae の AHL 生合成酵素を大腸菌で発現し、酵素アッセイ系の検討も進めた。目的酵素遺伝子の発現を SDS-PAGE で検証し、大腸菌が AHL 生合成能を獲得したことを確認することができた。さらに、酵素アッセイ条件の検討も若干行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成 23 年度の計画目標であった生合成中間体アナログ約 30 種の合成を完了し、それらの in vivo での活性評価を達成できた。部分構造にバラエティーを持った構造ユニットを別々に化学合成し、カップリング反応で組み合わせて行くことで、比較的容易にアナログ化合物群を得ることができた。0.1 mM とやや高濃度での条件下ではあるものの、in vivo で 50% の AHL 産生阻害活性を有する化合物を 2 種、40% 阻害を示す化合物を 4 種得ることができた点は評価できると思われる。阻害活性の高い 2 種の化合物に基づく構造展開を始めることができた点はやや計画以上に進展していとも言える。酵素アッセイ系の検討についても当初の計画通りのスピードで進められている。幸いにもB. gulumae の AHL 生合成酵素の発現用ベクターを入手でき、T7 プロモーター発現系で十分量の組換え酵素を可溶化画分として得ることができている。まだ、定量的な扱いができるまでの酵素アッセイ系を確立するには至ってはいないものの、この項目についても当初の計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
最も活性の高い 2 種のアナログ化合物をベースとした構造展開を進めていく。また、中程度の活性を示したアナログ化合物についても検討を進めていく予定である。特にリボース部分とアデニン部分について、過去の研究で構築されている SAM アナログの知見に基づいて、部分構造をデザインして高活性アナログ化合物の創出を成功させたい。また、平成 24 年度のなるべく早い段階で、酵素アッセイ系を確立する。これまでに酵素アッセイ系で安定して前駆体である SA Mから AHL を作ることに成功していない理由として、タンパク質のホールディングが正しく行われていない可能性を考えている。というのも、AHL 生合成酵素は多くのシステインを有するためである。抽出・精製・アッセイの各操作においては、その点に十分注意を注ぎ、進めていきたい。アッセイ法を確立した後、これまでに合成したアナログ化合物の in vitro での評価を進める。in vivo と in vitro のどちらにおいても活性を示す化合物が見出されれば、植物病原菌であるB. glumae の植物に感染する過程、植物組織内での増殖への影響も精査したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
アナログ化合物の化学合成に使用する試薬と溶媒におよそ 30 万円を使用する。酵素アッセイ法の検討においては組換え酵素の発現・精製操作で各種キットを利用するため約 30 万円を予算として計画している。成果発表費としては 20 万円を計画しており、学会発表と英文校閲量、論文投稿料などに充てる予定である。
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