クオラムセンシング(QS)は、細菌が化学シグナルを介して協調的に振る舞うメカニズムである。グラム陰性菌ではアシルホモセリンラクトン(AHL)がそのシグナルとして機能している。QSは細菌の病原性と密接に関連していることから薬剤のターゲットとして注目されている。そこで、アンタゴニストとは異なる手法でQSを阻害する方法、すなわちAHL生合成阻害物質の創製を目指し研究を進めた。植物病原細菌Burkholderia glumae由来のAHL生合成酵素TofIを使った酵素アッセイ系の構築を完成することができた。前年度、大腸菌で発現したTofIが酵素活性を示していなかったのは、抽出・精製過程で酵素が失活していたことが考えられた。構築した酵素アッセイ法を用いて、これまでに合成した生合成中間体アナログの活性を評価したところ、N-oactanoyl-SAMの5’-methyl基を除去したアナログでKi = 7.8 uMと強い阻害活性が認められた。本アナログは構造がやや構造が複雑なため、さらなる構造展開には不向きであった。そこでメチオニン部分のカルボキシ基を除去したアナログを作製し、阻害活性を調べたところ大きな差は認められなかったことから、カルボキシ基が活性発現には必須ではないことが明らかになった。さらに構造展開を進めたところKi = 0.21 uMの強い活性を示す阻害剤を作り出すことに成功した。今回見出した阻害剤の構造活性相関研究から、阻害剤のC8アシル鎖とアデノシン部分がTofIによって厳密に認識され、メチオニン部分については炭素鎖長が高活性発現には重要であることが分かった。現在、これら化合物の細胞レベルでの評価を進めている。本研究で見出されたAHL生合成酵素阻害剤はクオラムセンシング阻害剤としての発展が期待される。
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