研究課題/領域番号 |
23658104
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤井 智幸 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40228953)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 高圧処理 / 二次代謝産物 |
研究概要 |
植物は様々な代謝系を持っているが、高度に制御されており、実際に働いているのは一部である。本研究では、植物の休眠している酵素系を目覚めさせて新規物質を産生させる技術の開発を目指す。高圧処理という簡便で実用性の高い技術で植物の持つ顕在化していない酵素系を活性化することができれば、高品質な食品素材を取得するための設計基盤の確立につながる。食品素材は元は生物である。新鮮な食品素材を、その素材に内在する栄養特性や嗜好特性を損なうことなく加工あるいは殺菌する技術は食品工業において極めて有益である。現在広く行われている加熱操作は、ビタミンの分解、香味の劣化を伴い、決して理想的なものではない。加圧処理では、加熱処理では得られない多くの利点が見出されており、新しい食品加工技術として期待されている。 生物素材内では、高圧処理によって細胞組織の損傷と酵素タンパク質の状態変化が起こる。細胞組織の損傷は、生物組織内部の物質移動を促進するとともに、生体内代謝系の調節を司っていた細胞内小器官の機能破壊を併発する。従って、細胞組織は損傷するが酵素タンパク質はそれほど変性しない圧力処理条件を選べば、圧力に比較的弱い一部の酵素が失活する影響も加わって、通常とは異なる酵素反応経路が働き始め、新しい有益な二次代謝産物が生成することが期待できる。 対象生物素材としてカブを選び、高圧処理を施し除圧後の状態変化を検討した。カブを室温で高圧処理(600 MPa、5 min)を施した後4 ℃で保存し、保存中の色相変化を観察したところ、未処理試料は保存期間中、白色のままであったのに対し、高圧処理を施したカブは保存4日目に深青色を呈し、11日後ではさらに濃くなった。このことから、高圧処理によって、カブの青色色素の産生に関わる酵素系が活性化されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高圧処理により生物内に誘導される変化の特徴は、(1)細胞が破壊される、(2)物質移動が促進される、(3)反応(酵素反応)が進行する、である。従って、このような特徴を具現するためには、圧力条件を適切に選ぶ必要がある。400 MPa以上の圧力をかけるとタンパク質は高圧変性を起こすことが多く、酵素反応を活かそうとする場合には適当ではない。本研究の結果、高圧処理を施したカブを数日間保存すると内部に未知の青色色素が生成することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
高圧処理という簡便で実用性の高い技術で生物の持つ顕在化していない酵素系を活性化することができれば、酵素反応が高速化されると期待される。今後は、働いている二次代謝系に関する知見を得るために、高圧処理試料の酢酸エチル抽出物から未処理試料中には認められなかった化合物を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
高圧処理試料から低分子の二次代謝産物を抽出するために、抽出分離に必要な分離担体や溶媒などに充当する。
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