研究課題/領域番号 |
23658104
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤井 智幸 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40228953)
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キーワード | 高圧処理 / 二次代謝産物 |
研究概要 |
新しい食品加工技術として期待されている加圧処理では、加熱処理では得られないユニークな現象が見出されている。昨年度、対象生物素材としてカブを選び、高圧処理を施した後数日間保存すると青色色素が生成することを見出した。生物素材内では、高圧処理によって細胞組織の損傷と酵素タンパク質の状態変化が起こる。細胞組織の損傷は、生物組織内部の物質移動を促進するとともに、生体内代謝系の調節を司っていた細胞内小器官の機能破壊を併発すると考えられる。従って、この結果は、細胞組織は損傷するが酵素タンパク質はそれほど変性しない圧力処理条件が選ばれ、圧力に比較的弱い一部の酵素が失活する影響も加わって、通常とは異なる酵素反応経路が働き始めたものと考えられた。 高圧処理後のカブについて保存中に現れる化合物をTLCで分析したところ、酢酸エチル抽出物中に、高圧処理を施した試料に特異的に表れるスポットが得られた。このスポットについて単離精製し、これを同定したところ、C18トリヒドロキシ不飽和脂肪酸であることが明らかとなった。また、C18トリヒドロキシ不飽和脂肪酸は、高圧処理前に100℃、15分間の煮沸処理を行ったカブにおいては検出されなかった。そのため、C18トリヒドロキシ不飽和脂肪酸は高圧処理依存的に酵素反応により合成される化合物であることが示唆された。この化合物の異性体であるマリンジ酸は、リノレン酸を出発物質としたストレス応答の初期反応の中間代謝物と考えられており、その代謝にはリポキシゲナーゼが関与していることが示唆されている。カブ中から青色色素が生成したメカニズムは現段階では明らかではないが、高圧処理によって青色色素が生成する条件で、酸素供給を制限したところ、青色色素の生成が抑制されることが示された。以上の結果から、高圧処理を施したカブ中において酸素が関与する酵素反応が進行していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生物素材に200 MPa~400 MPa程度の圧力を施すと、生物素材の細胞構造・膜構造は破壊されるが、酵素などの高分子や低分子の生体成分にそれほど大きな影響は生じない。従って、二次的効果として内部での物質移動が速くなったり、酵素反応が促進されたりする。このような物質の細胞破壊や微生物の制御効果を利用して食品素材を新しい形質に転換する状態変化をHigh-pressure induced Transformation (Hi-Pit)と呼び、これを積極的に利用しようといている。本研究での成果は、このような効果の例と考えられ、当初の目的の達成に近づいている。
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今後の研究の推進方策 |
高圧処理という簡便で実用性の高い技術で生物の持つ顕在化していない酵素系を活性化することができれば、ユニークな食品素材の開発につながる。今後は、C18トリヒドロキシ不飽和脂肪酸の生成挙動を明らかにするとともに、継続的に亜高圧処理試料中の成分の内未処理試料中には認められなかった化合物を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度と同様に、高圧処理試料から低分子の二次代謝産物を抽出するために、抽出分離に必要な分離担体や溶媒などに充当する。
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