研究課題
食品素材である農産物に高圧処理を施すと内部組織構造や膜構造が破壊される結果として,内部での物質移動が容易となったり,力学特性が変化することが知られている.食品への新しい高圧の利用法として,圧力および温度に除圧後の時間の因子を加えて,食品素材を高付加価値化させる技術を確立するための研究が進んでいる.本研究では,市販のタマネギを試料として用い,ピストン式高圧処理装置に減圧包装した試料を入れ,25℃で5分間静水圧による高圧処理(50-400 MPa)を施した.高圧処理後の試料は減圧包装のまま25℃の恒温器で4日間保存した. 25℃での保存中にラジカル消去活性が増加した高圧処理タマネギ試料の成分について,主要な抗酸化物質であるフラボノイドをターゲットとしてHPLC分析を行った.高圧効果により顕著に増加した溶出時間27.3分のピーク成分を同定したところ,ケルセチンであった.高圧処理を施したタマネギ試料において保存中にケルセチンが増加したために,ラジカル消去活性が増加したことが示された.本研究で検討した200 MPaの高圧処理条件では,高圧処理によってまず細胞性生物素材の組織構造に損傷を与え,細胞構造の損傷により組織構造内における物質移動が促進されることで,局在化していたケルセチン生成に関与する酵素群と基質の会合性が上がった結果として,ケルセチン濃度が増大したものと考えられた.本研究の結果から,高圧の3次元的利用法として圧力及び温度に除圧後の時間の因子を加え併用することにより,生物素材の持つ二次代謝反応を利用した物質変換が可能であることが示された.この様相は,食品・農産物が高圧によって形質が変わったとみなすことができる.このような高圧処理による食品素材の変化を「High-Pressure Induced Transformation (Hi-Pit)」と呼ぶことができるであろう.
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Bioscience, Biotechnology and Biochemistry
巻: 77 ページ: 706-713