研究課題/領域番号 |
23658105
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
白川 仁 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40206280)
|
研究分担者 |
後藤 知子 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00342783)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 栄養化学 / 食品 / 発現制御 / 動物 |
研究概要 |
脂肪酸合成酵素(fatty acid synthase, 以下FASNと略)は、NADPH依存的に、acetyl-CoAとmalonyl-CoAから長鎖脂肪酸を合成する酵素である。食餌などの環境因子やホルモンがFAS遺伝子の発現や酵素活性に影響を与える。転写においてはステロール制御配列結合因子(SREBP1c)とグルコース応答配列結合タンパク質(ChREBP)が鍵因子であり、それぞれ、インスリン、グルコースによって活性化される。申請者らは、通常ラットにおいて摂食-再給餌後の肝臓FASN mRNA量を経時的に観察したところ、血糖値やインスリン値が僅かに上昇した時間において、FAS mRNA量はピークを迎え、血糖値、インスリン値やFAS以外のインスリン応答性遺伝子の発現がピークのときには、FAS mRNA量は減少に転じていることを発見した。このことは、従来知られている機構とは異なった、FASNの転写制御機構の存在を示唆している。本研究では、再給餌直後の、血中インスリン、グルコースに依存しないFASN遺伝子の新規転写調節機構を動物個体を用いて明らかにする。再給餌後のSREBP1cやChREBPのタンパク質量の変化をウエスタンブロット法で解析した。その結果、核内のChREBP量は、FASN mRNA量と相関が見られ、再給餌後早期のFASN mRNAの上昇は、ChREBPにより制御されていることが示唆された。また、絶食時のFASN mRNA量の低下は、RNA分解の亢進により起こる可能があることから、絶食時、再給餌時に変化するmiRNA種について検索を行った。その結果、、FASN mRNAを標的とするmiRNAが、絶食―再給餌により変化し、FASN mRNA量の制御に関与する可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
核ランオンアッセイは、従来、分離核中で新生RNAを放射性ヌクレオチドで標識し、標識RNAを精製後、メンブランに固定した標的cDNAとハイブリダイゼーションさせていた。検出感度と定量性を向上させる目的で、リアルタイムPCR法での検出法の構築を試みた。ビオチン標識したRNAをストレプトアビジンビーズで精製し、cDNA合成後、リアルタイムPCR法で測定した。しかし、再現性について問題があり、結果が得られていない。今後、方法に改良を加え、本法の構築を諮る。
|
今後の研究の推進方策 |
再給餌後のFASN mRNAの発現上昇は、ChREBPを介することが示唆されたことから、クロマチン免疫沈降によって、FASN遺伝子の制御領域に結合していることを確認する。一方、ChREBPが活性化された時点では、血清グルコース濃度は大きく上昇していない事から、再給餌による消化管からのシグナルにより、ChREBPが活性化されると推定した。そこで、消化管から脳へ至る求心性の自律神経を不活性化し、再給餌シグナルが神経系を介して、ChREBPを活性化することを明らかにする。また、再給餌した餌の中のどの成分によって、FASN mRNAが上昇するかについて解析を行う。摂食-再給餌により変化したmiRNAのうち、FASN mRNAを標的とすると推定されたmiRNAについて、培養細胞を用いて解析を行い、FASN mRNA分解に関わるか、否かを明確にする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
SDラットの消化管から脳へ至る求心性の自律神経を切断する。術後、回復期間を経た後、絶食させ、脂質を含まない餌を与える。再給餌後、経時的にラットを屠殺し、血液、肝臓、脂肪組織を採取する。肝臓でのFASのmRNA発現量を定量RT-PCR法で検出するとともに、核内のChREBP量、血清インスリン、グルコースなどを測定する。また、肝臓から細胞核を分画し、核run onアッセイにより、転写率を測定する。次に、脳から肝臓へ至る遠心性の自律神経を切断し、同様に解析を行う。以上の解析により、再給餌後のFAS遺伝子の初期発現が自律神経系を介したChREBPの活性化によることを示す。miRNAの標的部位を有するルシフェラーゼ遺伝子の3’-UTRに有するレポーター遺伝子を作成し、miRNAの過剰発現プラスミドとともに、HEK293細胞に導入し、miRNAがレポーター活性を低下させることを確認する。つぎに、miRNAの標的部位に変異を導入したレポーター遺伝子を導入した場合、レポーター活性が変化しないことを確認する。また、ラット肝癌由来FAO細胞に、miRNA発現プラスミドを導入し、内在性のFASN mRNAの低下を確認し、本miRNAがFASN mRNAの分解に関わることを明確にする。
|