研究課題/領域番号 |
23658109
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 隆一郎 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (50187259)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | Gタンパク質共役受容体 / TGR5 / 抗肥満 |
研究概要 |
ヒトゲノムに含まれるGタンパク質共役受容体(GPCR)の多くは、生理的リガンドが不明のオーファン受容体であり、GPCRが関与している生理現象の大部分が未解明の領域といえる。これまでリガンドが明らかにされている受容体は、中枢神経系、内分泌系、循環器、呼吸器、泌尿器、消化器、生殖器など多岐にわたる組織、臓器で機能している。従ってGPCR研究は多様な生理現象の調節機構を理解するための基礎研究としてだけでなく、それらを制御して健康を維持するという応用研究の面からも極めて重要である。このような受容体の中で、食品由来の分子を結合するものを標的と定め、新たなリガンド活性を有した食品成分を探索するアイディアは斬新なものと言える。 本年は胆汁酸受容体TGR5に焦点を絞り研究を進めた。TGR5はげっ歯類では主に褐色脂肪細胞、ヒトでは筋肉細胞に発現しており、各組織での熱産生を上昇させ、抗肥満活性を発揮することが証明されている。すでに評価系を構築し、複数のリガンド活性を有する食品成分の探索に成功している(特許出願済)。これらの化合物のうち、新たに見いだした柑橘成分化合物ノミリンに関して解析を進めた。本化合物は内因性リガンドである胆汁酸よりやや強いリガンド活性を有しており、マウスに高脂肪食と混ぜて投与すると、抗肥満効果が検証された。さらに、TGR5分子中のどのアミノ酸と水素結合し、機能を発揮するかについて、分子細胞生物学的な解析を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
独自に開発した評価系において、数百種類の植物由来精製成分の機能を評価し、その中から複数のリガンド活性化合物を見いだすことに成功している。さらに、そのうちの一つである柑橘成分ノミリンは、実験動物に投与した際に、強い血糖低下作用、顕著な抗肥満作用を発揮したことから、本評価系で陽性と評価された化合物には同様の効果が期待される。ノミリンとは別の成分である化合物についても活性を見いだし、これらはいずれも特許出願をすませてある。他のGタンパク質共役受容体に関しては、今後更なる評価系構築を試みて研究を進めつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
胆汁酸受容体TGR5と複数の食品由来化合物の結合、その生理活性についてさらに解析を進める必要がある。とくに、すでに見いだしたリガンド成分は構造が著しく異なることから、受容体との結合様式は異なることが予想される。実際、その結合様式をコンピューターシュミレーションすると2つは異なるアミノ酸残基との結合を介して、機能を発揮していることが推定される。これらの推測に基づき、複数のアミノ酸を置換させたTGR5を発現させ、リガンドと受容体の結合様式の詳細を明らかにすることを予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
(1) GPR120リガンド評価系の構築と食品成分探索 ヒトGPR120 cDNAをクローニングし、発現ベクターに挿入し、HEK293細胞にSRE(serum response element)を含むレポーター遺伝子と共に発現させる。フラボノイド類を中心に低分子食品化合物約200種類を培地中にそれぞれ100 μM添加し、Luciferase活性を測定し、リガンド活性を評価する。n-3不飽和脂肪酸様リガンド活性を有する化合物に関して、添加濃度を減少させ、その有効濃度を検討する。(2)ナイアシン受容体HM74リガンド評価系の構築と食品成分探索 ヒトHM74 cDNAをクローニングし、発現ベクターに挿入し、HEK293細胞にCRE(cAMP response element)を含むレポーター遺伝子と共に発現させる。図1とほぼ同様の評価系であるが細胞内の応答系がGPR120と異なるため、別のレポーター遺伝子を用いる。フラボノイド類を中心に低分子食品化合物約200種類を培地中にそれぞれ100 μM程度添加し、Luciferase活性を測定し、リガンド活性を評価する。ナイアシン様リガンド活性を有する化合物に関して、添加濃度を減少させ、その有効濃度を検討する。
|