研究課題/領域番号 |
23658110
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松田 幹 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (20144131)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アレルゲン / 交差反応抗原 / 食物アレルギー |
研究概要 |
花粉のような吸入アレルゲンと類似の配列を持つ食物アレルゲンでは、吸入アレルゲンに対して産生されたIgE が食物タンパク質と交差反応するケースが相当数存在すると予想された。そこで、本研究ではアレルゲンデータベースとプロテオーム情報を活用して交差反応性タンパク質を探索・同定し、アレルギー患者血清IgEとの反応特性を明らかにすることを目的に、まず、国際的ネットワークにより構築されたアレルゲンデータベースに登録されているアレルゲンタンパク質(食物アレルギーのみならず花粉症や喘息など全てのアレルギーを含む)のアミノ酸配列情報と、プロテオーム解析とトランスクリプトーム解析によって得られた個々の動植物組織の可食部(食物)で発現、存在するタンパク質のアミノ酸配列情報を比較した。インシリコでアレルゲン類似構造タンパク質をスクリーニングした結果、複数のアレルゲン候補タンパク質が検索された。例えば、樺の木などの果樹の花粉症の主要アレルゲンと類似のタンパク質が小麦の種子で発現していること、また、製パン業者の小麦粉喘息の原因アレルゲンとして知られるタンパク質と類似配列を持つ分子がイネ種子(コメ)で発現していること、さらにコメ主要アレルゲンとして同定された分子が小麦種子でも発現していることなどが明らかとなった。これらの中で、いくつかの候補タンパク質分子についてcDNAを取得し、大腸菌発現ベクターに組み込んだプラスミドを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の第一の目的は、作物可食部のプロテオームデータベースで発現が確認されているタンパク質の中で、既知のアレルゲンと類似の構造(アミノ酸配列)を持つ分子を探索することあった。実際に検索すると、同じ植物はもちろん、下等動物や高等微生物に由来するアレルゲンと一定の相同性を持つタンパク質が食物として摂取される作物の可食部でも発現していることが複数見つかってきた。このことからアレルゲン候補分子の探索に関しては、ほぼ計画通り進んでいると考える。一方、大腸菌で組換えタンパク質として発現させるために、アレルゲン候補タンパク質のcDNAを組み込んだ発現プラスミドの作成に関しては、一部のクローンでcDNAの増幅が難しいものがあり、進捗が遅れている。プライマーを作成し直して再度、増幅条件等を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究により、配列に相同性(類似性)が認められた既知アレルゲン、および可食部タンパク質の中からより重要と思われる分子を選抜し組換えタンパク質として大腸菌で発現させる。発現したタンパク質を分離精製し、抗体分析のための抗原タンパク質を調製する。簡便に多量の組換えタンパク質を調製できることと、アミノ酸配列(一次構造)を重視する点、さらに、糖鎖が付加されないメリット(糖鎖で交差反応する例がある)を考慮して、発現系には大腸菌を選択する。タンパク質についてリッター規模の培養で組換え大腸菌を培養し、発現誘導後、目的のタンパク質をニッケルアフィニティーカラムにより精製する。不溶性タンパク質としてインクルージョンボディーに蓄積したタンパク質は、洗浄により菌体タンパク質を除去した後、尿素と還元剤で可溶化し、尿素存在下でのニッケルアフィニティーカラムクロマトにより同様に精製する。尿素存在下で精製したタンパク質は、透析で徐々に尿素濃度を下げる方法でリフォールドさせ、けん濁溶液として抗体分析の実験に用いる。また、余裕があれば最終年度のIgE抗体分析のための予備的な実験を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、進捗が遅れている発現プラスミドを構築するとともに、平成23年度に得られた成果を基にして、組換えタンパク質発現用プラスミドを大腸菌に導入し、発現を誘導し、期待された分子量のタンパク質の発現をSDS-PAGEおよびTAG特異抗体を用いた免疫ブロット法により確認し、また、酵素分解断片の質量分析ペプチドマッピングにより目的のタンパク質を同定する計画である。繰越した研究費は、当初の予定通り、発現プラスミドの構築に必要な試薬類やプラスチック器具類などの消耗品に充てる予定である。また、次年度の研究経費は、組換えタンパク質の発現と分精・精製、および同定などのための実験および分析に必要な、試薬類やプラスチック器具類などの消耗品に充てる予定である。なお、研究が順調に進み、成果が得られた場合には、年度末に予定されている学会で成果を発表する予定で、その場合には、そのための旅費にも充当する。
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