超高齢化社会となり、活動が制限された状態である寝たきりや長期のベッドレストなどは、特に廃用性症候群と呼ばれる。臨床現場では、寝たきりとなる原因に注目するため、寝たきりそれ自身の影響はほとんど検討されてこなかった。一部外部に現れる症状は、原因とは別に検討されてきた。例えば筋萎縮などである。しかし、寝たきり状態の動物実験モデルが存在しないため、不活動によって体の中で何が起きているかなど生化学的・分子生物学的研究は全くされてきていない。私たちは、ラットをボールマンケージに簡易拘束することにより、寝たきり状態に近い現象を引き起こすことに成功し、寝たきり動物モデルを初めて考案した。 Wistar系雄ラットに高コレステロール食を与え、高コレステロール血症を発症させ、その後半数のラットをボールマンケージに移し、42日間飼育した。実験期間終了後、血清、肝臓を採取し、肝臓からはRNAを抽出し、アフィメトリクス社のマイクアレー解析を行った。またリアルタイムqRT-PCR法によりRNAの定量解析を行った。 寝たきり群では、血清コレステロール濃度が増加し、血清ALT、AST活性が増加した。血清コレステロール濃度の増加は、肝臓からのVLDL放出速度の増加によることが分かった。トランスクリプトーム解析から、肝細胞の増殖、アポトーシスに関連する遺伝子の変動が見られ、含硫アミノ酸代謝を変動させた遺伝子を特定できた。寝たきり群では肝臓特異的転写因子の遺伝子発現の変動が見られた。これらの結果は、寝たきりモデルにおいては、肝臓の遺伝子発現異常を介して、アミノ酸、糖質の代謝変動が引き起こされ、そのために肝機能ならびに脂質代謝の異常が生じたことを示している。
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