カロテノイドは脂溶性物質であり、生体内においては細胞膜等脂質部位に局在している。このことより、生体内においてカロテノイドは各種ストレスによる細胞膜等に存在する脂質の損傷に対して防護的に機能するという生体防御機構が考えられる。しかし、代表的酸化ストレスとして知られている電離放射線による脂質損傷に関する知見は乏しく、さらに電離放射線による脂質損傷に対するカロテノイドの影響に関してはほとんど報告がなされていない。 本研究においては、代表的な生体脂質であるα-リノレン酸のベンゼン溶液にγ線を照射し、脂質の代表的な酸化損傷である酸化的分解および過酸化に関して、それぞれ生成malondialdehyde量および生成共役ジエン量を指標に解析し、その線量-効果関係を求めた。さらに、代表的なカロテノイドであるβ-カロテンおよびアスタキサンチンの存在下、非存在下でα-リノレン酸に対し、定常的な酸化的分解反応および過酸化反応が進行する線量のγ線を照射し、各実験条件下における酸化的分解および過酸化の程度を解析した。その結果、それらカロテノイドは特定の濃度範囲においてγ線照射によるα-リノレン酸の酸化的分解に対して抑制効果を示すこと、そして過酸化には影響を与えないことが明らかになった。これらのことより、カロテノイドは脂質の過酸化反応ではなく酸化的分解反応を抑制することにより、電離放射線等酸化ストレスに対する生体防御機構に関与していることが示唆された。 本研究で得られた結果は、電離放射線等酸化ストレスに対するカロテノイドによる生体防御機構の解明、および高い抗酸化活性、生体防御活性を有する物質の探索に対し有意義な知見を与えると考えられる。
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