本研究では、温暖化が晩霜害を介してブナの成長と分布に及ぼす影響を明らかにするため、開葉後の降霜が肥大成長に及ぼす影響とその個体間・集団間変異を調べた。青森県八甲田連峰の盆地である田代平において、2010年と2011年に発生した晩霜害がブナの成長に及ぼす影響について分析した結果、両年ともに開葉後の気温が0℃以下に低下した時に葉が凍結して褐変・落葉したが、シュート先端部の木部組織の枯損と肥大成長量(年輪幅)の有意な減少が認められたのは、気温が-3℃を下回った2010年のみであった。このことから、年輪分析で推定可能な晩霜害は、-3℃以下の低温を伴う降霜によるものであることが示唆された。次に、同山域の田代平を含む4地点のブナから木部コアサンプルを採取し、標準年輪曲線を作成するとともに、近隣のアメダスのデータから各調査地の過去の気温を推定し、これに基づいて開芽後の降霜の有無を推定した。4調査地のうち、田代平のブナについては開芽の早い個体と遅い個体が見られた。開芽の早い個体については、降霜の有無とその年及び翌年の年輪幅との間の明瞭な関係は認められなかった。一方、開芽の遅い個体の年輪幅は降霜年に減少する傾向が認められた。田代平以外の地点については降霜と年輪幅の間の相関は認められなかった。このことから、ブナの肥大成長に及ぼす晩霜の影響は集団や個体によって異なることが明らかとなった。晩霜害の個体間変異・集団間変異にフェノロジー(開芽時期)の個体間変異や局地的な気象要因がどの程度関係しているのかを今後検討する必要があるものといえる。
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