研究課題/領域番号 |
23658122
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大澤 裕樹 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (90401182)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ツバキ科 / アルミニウム / 酸性土壌 / プロアントシアニジン / 根 / ヒメシャラ / モッコク |
研究概要 |
酸性土壌で可溶化する過剰のアルミニウム(Al)は植物根の成長を阻害する。一方、チャを含む特定の植物は地上器官に多量のAlを集積して生育するが、このAl集積機構や輸送機構の詳細は不明である。チャの樹液ではAlとカテキンが複合体を形成するが、カテキンなどの重合体のプロアントシアニジン(PA)のAl輸送や集積における役割は明らかでない。ツバキ科8種のAl集積輸送の要因を明らかにするため、これらの樹液におけるPA濃度と根におけるPA分布を調べた。モッコク以外のツバキ科7種で根の内皮にPAが集積した。また、全種で木部道管と篩管近傍にPAが集積した。ヒメシャラを詳細に調べたところ、内皮と木部道管および篩管のPA集積が根端から地上器官まで連続することがわかった。一方、根表面のPA集積はツバキ科4種になく、モッコク科3種で根端を含む全てで、モッコクで根端から約3 mmより基部側で認められた。モッコク以外のツバキ科種全てで枝の木部道管と篩管にPAが集積したが、モッコクでは篩管にのみだった。根の内皮と地上部の木部道管のPA集積がAl集積性ツバキ科種とモッコクの間で異なることがわかった。枝条の樹液のPA濃度は、Al集積性4種でAl非集積性種モッコクの10倍以上で、ヒサカキで最大だった。Alフリーで育成したヒメシャラ、ヒサカキ、サカキ苗の枝条の樹液のPA濃度は全て前述のAl集積性種と同レベルとなり、樹液のPAはAlによらず一定であることがわかった。水挿ししたヒサカキ切枝の樹液PA濃度は水挿し前の10%以下となり、地上部の樹液PAが根からの輸送に由来する可能性が示唆された。樹液のPA濃度はAl濃度よりも低かったことから、地上部へのPAとAl輸送に共輸送以外の要因が含まれる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ツバキ科種のアルミニウム(Al)集積を比較することで、地上部へのAl輸送に根のプロアントシアニジン(PA)の集積分布が重要な役割を果たす可能性を世界で初めて明らかにすることができた。さらに、樹液に含まれるPAがAlの地上部移行に関与する可能性を初めて明らかにすることができた。これらの発見はそれぞれ当初計画に基づく成果であり、計画ならびに進捗の妥当性を示していると考える。当初計画していたPAの構造解析が分析機器の導入が当初計画から遅れたため未実施であるが、平成24年度中に機器を導入する見込みとなっており、当該研究期間中に実施可能である。
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今後の研究の推進方策 |
ツバキ科種根のAlとPAの生理生化学応答の検証を通じてAl輸送集積における内皮集積性PAの機能の作用機序を解明する。そのため、Al集積性の異なる種間のPA構造、Alとの結合性、Al-PA複合体の輸送特性、他のキレート物質との受け渡し能力、Alとの結合以外の修飾作用に着目する分析および評価試験を実施し、ツバキ科種のAl輸送におけるPAの実体を照射する。前年度ならびに本年度計画によって得られるデータを取りまとめ、Al輸送における内皮PAの機能を細胞内外の複合体形成、ローディングとアンローディングのリレー効果、結合以外の機能に絞り込んで考察する。これによりAl集積性ツバキ科種のPAとAl毒性、Al集積との関係を明らかにする。なお、別の予算で導入する予定であった質量分析装置の導入が遅れたため、分析用消耗品として計上した分の次年度使用額が発生したが、平成24年度中に機器を導入する見込みとなっており、これらの次年度使用額について<Al集積性の異なる種間のPA構造解析>ならびに<PAを介したAlリレー能力評価>における分析用消耗品として当該研究期間中に使用する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
<PAを介したAlリレー能力評価> チャにおけるAl形態が根と木部導管液中で異なる可能性が明らかにされている。ツバキ科種根の内皮PAが輸送時の異なるAl形態に関与するか明らかにするため、Al-PA複合体の結合力を共存物質との乖離試験から評価する。Alを含まない溶液で栽培したAl集積性種の根から抽出したPAをゲルろ過クロマトグラフィーによりサイズ分画し、任意サイズのPAポリマーを精製する。これらを用いてAl-PA混合溶液を調製し、これにクエン酸やシュウ酸を滴下した場合の複合体の構造変化に伴なう吸光度変化を分光光度計を用いて計測し、Al-PA複合体の結合活性を評価する。また、Al集積性の異なる種間から抽出したPAについてそれぞれ活性を求め、Al集積量との関係を評価する。また逆に、Al―クエン酸複合体あるいはAl―シュウ酸複合体にPAを添加した際の光学的変化を測定し、有機酸からPAへのAlリレー能力の有無について評価する。<Al集積性の異なる種間のPA構造解析>ツバキ科の根に集積するPAの構造が種間で異なるAl集積に関連するか明らかにするため、根、木部導管溢出液、葉に含まれるPAの構造をLC/MS/MS(液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析装置)を用いた生化学分析によって明らかにする。ツバキ科のAl集積性の異なるグループであるヒサカキ、ヒメシャラ、サカキ、ヤブツバキ、モッコクのPAの構成と重合度を明らかにするため、チオール化反応によって構成単位となるフラバン3-olを分解させ、これらの分解産物の末端あるいは伸長部での存在構造をLC/MSで同定し、末端と伸長部の構成比から平均重合度を算出する。
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