研究概要 |
ブナ科樹木萎凋病(以下、ナラ枯れ)はカシノナガキクイムシPlatypus quercivorusの大量穿入(マスアタック)と,この昆虫が樹体内に持ち込む病原菌Raffaelea quercivoraの樹木内蔓延により起こる伝染病である.1980年代以降,コナラ(Quercus serrata)やミズナラ(Q.crispula)といった樹種を中心に本病の被害は全国各地へと拡大しているが,未だその発病機構は明らかになったとはいえず,適切な防除方法も確立されていない。本研究では植物が傷害に応答して生産することが知られている植物ホルモン、ジャスモン酸メチル(以下MJ)と、エチレン(Et)を外部から寄主樹体に接種し、寄主の抵抗性反応を誘起し、カシノナガキクイムシに対する獲得抵抗性の誘導を試みた。その結果、本来寄主への飛来に見られるマスアタックに変化が起こり、飛来ピークが不明瞭になり、かつ飛来総数が減少した。しかし、このように植物ホルモンで処理した個体の中には、本来の飛来ピーク時から遅れて大量飛来が生じるものがあり、このような処理の効果が一時的なものであることを伺わせた。この実験で観察された植物ホルモンの効果はカシノナガキクイムシが生産する集合フェロモンに影響を与えている事が示唆されたが、そのことを確かめるためには更なる研究が必要である。また、本研究結果は植物と他生物の相互作用を研究する上で、宿主樹木の植物ホルモン処理が新しい研究方法となることを示唆している。
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