研究課題/領域番号 |
23658127
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡田 直紀 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (40335302)
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研究分担者 |
清野 達之 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (40362420)
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キーワード | タイ / 熱帯樹木 / 形成層マーキング |
研究概要 |
日本国内の京都市とつくば市において,樹木の電気インピーダンスの測定を通年で行い,値の季節変化を調べた.デンデロメータで幹の肥大成長を同時に観測し,樹木の成長に伴う形成層活動の変化と電気インピーダンスとの関係を見た.電気インピーダンスは4月に最も低い値を取り,樹木の成長期を通じてほぼ一定もしくは若干増加し,10月以降急上昇し,1月末から2月に最大値を示した.この変化は測定対象樹種で共通していたが,電気インピーダンスの値には樹種間で違いが見られた.電気インピーダンスと気温との間には負の相関が見られ,値の季節変化には木部組織の生理的な変化だけでなく,気温の季節変化にともなう電極-木部組織の境界面における電気化学的反応の影響を反映しているものと考えられた.したがって,温度による影響を適切に補正すれば,電気インピーダンスの観測によって木部組織の生理的変化をモニタリングできるものと期待される. 電気インピーダンスのモニタリングと高電圧パルスを用いた形成層マーキングを,タイの熱帯季節林とマレーシアの熱帯林において開始した.調査樹種の電気インピーダンスの値には樹種に共通した季節変化が見られたが,値の大きさは樹種間で異なっていた.気温の変化の少ないタイの調査地では,電気インピーダンスへの気温の影響ははっきりとしなかったが,雨季に比べて乾季に値の上昇が見られた. 以上のように,気温の変化の大きい温帯と雨季乾季のある季節熱帯とでは,樹木の電気インピーダンスの季節変化に違いが見られた.この季節変化が樹木の生理的な変化をどの程度反映したものであるかについては,気温や大気湿度の測定値への影響を考慮する必要があり,適切な補正によって,樹木の生理状態のモニタリングに応用ができるものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
直流高電圧パルスによる形成層マーキングについては,その有用性を日本国内の樹種において確認をした.すなわち,400Vから500Vの電圧を用いた形成層マーキングによって,樹幹の同じ部位に異常細胞を形成させることができ,その異常細胞を材形成時期の推定に利用できる見通しを得た. 熱帯産樹種への手法の適用について,タイとマレーシアの熱帯林での形成層マーキングを研究計画通り実施した.したがって,最終年度において,直流高電圧パルスによる形成層マーキングの熱帯樹種への適用可能性について,評価を行うことができる. 一方で,樹木の生理的変化をモニタリングするための電気インピーダンス測定は,測定値に温度依存性が見られ,応用のためには補正が必要であることが明らかになった.この補正法を確立することが,直流高電圧パルスによる形成層マーキングを有効に利用するために必要であり,次年度の検討課題として残った.
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今後の研究の推進方策 |
国内の京都市とつくば市において,電気インピーダンスの測定を継続し,樹種や生育地の違いに基づく形成層活動の違いが,電気インピーダンスの値にどのように影響を与えるのかについて検討を行う.また,測定値の温度依存性の補正について検討を進める. タイとマレーシアで前年度から開始した電気インピーダンスの測定を継続し,熱帯樹木における形成層活動の季節変化をモニタリング可能性を検討する.前年度に施しておいた直流高電圧パルスによる形成層マーキングの試料を採取し,木部組織の変化を顕微鏡観察によって調べる.その結果および温帯樹種との比較に基づいて,熱帯樹木への形成層マーキング手法としての評価を行う.以上の結果に基づいて,本課題で提案した直流高電圧パルスによる形成層マーキングの熱帯樹木への適用可能性について,総合的な評価を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
タイ,マレーシアでの試料採取のための旅費,試料採取の補助,採取試料の解析のための実験補助,顕微鏡解析のための試薬とその他の消耗品購入に使用する.研究の最終取りまとめのに向けた分担者との研究打合せのための旅費,成果発表のための学会参加費,論文投稿のための英文校閲と投稿費用に用いる.
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