マツ材線虫病は現在、北海道をのぞく日本全土に広がり、甚大な被害を起こしている。これまでに多くの防除策が開発されてきたが、いずれの防除法も完全ではなく、また、環境への影響の懸念や材質の低下、あるいはコストなど多くの問題を克服できていない。 この現状を打開する新しい防除法として、本研究は、天敵微生物としてウイルスを利用したマツノザイセンチュウの生物防除法を開発することを最終目的とし、まずマツノザイセンチュウに感染する病原性ウイルスの探索を行った。全国各地から採集した、さまざまな形質を持ついくつかの系統のマツノザイセンチュウから、ウイルスゲノムの検出、あるいは電子顕微鏡を用いた観察によってウイルスの検出を行った。しかし、感染しているウイルスを発見することはできなかった。また、別の手段として、植物や昆虫など他の生物を宿主とする既知のウイルスを接種することにより、マツノザイセンチュウにも感染能をもつウイルスの発見を試みた。接種はエサとともに経口摂取する方法と、薬品をもちいて外皮に接種する方法を試みたが、マツノザイセンチュウに感染・増殖するウイルスを見つけ出すことはできなかった。さらにエレクトロポレーション法による導入も試みたが、それでも感染ウイルスを見つけ出すことはできなかった。これらの結果から、マツノザイセンチュウはウイルス病に対してなんらかの強力な抵抗性を有していることが示唆され、まずはその解明が求められることとなった。
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