昨今、センサーやエレクトロニクス機能を持つ紙基板デバイスが盛んに発表されており、紙が高機能素材として利用されている。紙は単に安価であるに留まらず易廃棄性やリサイクル性の高く、他材料にはない多孔質構造由来の液体輸送/保持機能がここでは活用されている。その応用の1つとして、生物学における迅速バイオアッセイシステムへの紙の活用を本研究の目的とした。 通常の微生物や細胞の培養では、シャーレに寒天培地を固定し菌を接種する作業が人の手によって行われ、接種の形状や細胞数が一定ではなく、網羅的実験には多くのシャーレを要する。インクジェットプリンタ(IJP)により培地及び細菌を紙に印刷し、紙の多孔構造にそれらを固定できれば迅速な培地作製と接種が小面積で行うことができ、顕微鏡によりコロニー成長を評価すれば数時間のうちにバイオアッセイが終了する。このようなシステム開発を行った。 IJPと紙を組み合わせて使う目的はろ紙上で培地をパターニングし、栄養条件やpHが異なる複数の小区画を作り出すことにある。寒天を紙の上に直接保持するためには周囲が強い疎水性でありながら弱親水性の区画が必要となる。そのため、3%のポリスチレンのトルエン溶液にろ紙を2時間浸漬して乾燥し、点在するポリスチレンによりろ紙全面を疎水化した。培地形成区画箇所にトルエンだけを印刷してポリスチレンを溶出し、弱親水性化した。硫酸加水分解により寒天粘度を調整してゲル化までの時間を制御し、IJPにより寒天培地を区画上に形成した。手作業でバクテリアを接種したところ、コロニーが成長したことを確認した。24時間経過すると寒天が乾燥しはじめ、繁殖が止まったが、本システムでは24時間以内に判別できるシステムを目指しているため問題ではない。 使用後は焼却により廃棄が簡単という利点もある紙培地とIJPによる高精度分注との連動による新たなバイオアッセイシステムの基礎が確立された。
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