研究課題/領域番号 |
23658140
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松本 雄二 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (30183619)
|
キーワード | リグニン / 原子間力顕微鏡 / π-π相互作用 / 樹木 / 細胞壁 / シリンギル / グアイアシル |
研究概要 |
本研究はリグニン芳香核と特異的にコンプレックスを作り得る化合物を原子間力顕微鏡の探針上に何らかの形で結合させ、その探針を装着した原子間力顕微鏡によって細胞壁を観測し、リグニンの存在状態についてナノレベルで可視化しようとするものである。この研究は次の3つのステップからなる。 (1)リグニン芳香核との間に強い相互作用を有する化合物の探索 (2)そのような化合物の探針への結合法の開発 (3)原子間力顕微鏡に装着した探針による細胞壁表面の観察 リグニン芳香核の構造を考えた場合、その多くは、メトキシル基や他のアルコキシル基、あるいは、フェノール性水酸基の存在によって電子密度が高くなっており、前年度は、テトラシアノエチレンなどの非常に電子密度の低いπ結合系を有する化合物がリグニン芳香核とのコンプレックス生成に有望であると結論し、種々のリグニン芳香核モデル化合物との相互作用を測定した。しかし、リグニン中には、α-カルボニル型の芳香核や、リグニン生合成の過程で芳香核を再生するに至らずシクロヘキサジエノン型構造の段階にとどまっているものも存在する。これらは電子欠乏性の構造であり、これらとの間で相互作用を有しえる化合物は、上記とは逆に、電子リッチなπ電子系を持つ化合物である。リグニンの電子欠乏性部位の情報を含めることで、細胞壁におけるリグニン分布の情報は格段に豊富になる。本年度はこの点に着目して、研究を進めた。この点の追求が不十分であるため、繰越年度においては、このような化合物を合成し本研究に応用する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、リグニン芳香核の構造に応じて、それとの相互作用を有する物質を使い分けることが重要である。この意味において、リグニン中の電子リッチな芳香核のみならず、電子欠乏状態にある芳香核をも視野に入れて研究を進め得たことは、本研究を開始した当初には想定し得なかった成果を達成できたことになる。しかし、そのため、探針への化合物の結合の仕方など、他の重要な諸点が、まだ十分にはつめられていない状態にある。
|
今後の研究の推進方策 |
選択した化合物の探針への結合の仕方を確立し、その手法によって製造した探針を装着した原子間力顕微鏡を用いて、樹木細胞壁の観察を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
電子欠乏状態にある芳香核と相互作用し得る化合物の合成ならびに、それらの、探針への結合法の開発を行う。
|