研究課題/領域番号 |
23658142
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河本 晴雄 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (80224864)
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研究分担者 |
坂 志朗 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (50205697)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | バイオマス / バイオリファイナリー / ケミカルス / 熱分解反応制御 |
研究概要 |
本年度は、非プロトン性のポリエーテル中での非還元糖の熱安定性を評価するとともに、ポリエーテル中での還元糖の熱分解により生成するケミカルスとその収量について検討した。還元糖がポリエーテル中で熱安定化されることは既に確認していたが、非還元糖については不明であった。そこで、グルコース、マンノース、ガラクトース、キシロース及びアラビノースのメチルグリコシド類を用い、これらの反応性を溶融状態とポリエーテル中で比較検討した。その結果、溶融状態では230~240℃の温度域で熱分解が進行し、多糖、フラン類などの脱水物及び炭化物を与えたが、ポリエーテル中ではポリエーテルの分解が認められ始める280℃まで分解量はごく僅かであり、非還元糖も還元糖と同様にポリエーテル中で熱安定化されることがわかった。これにより、ポリエーテルの熱安定化作用は糖類一般に言える現象であることが明らかになった。これは、糖分子間での水素結合が抑制されることで、糖分子へのプロトン供与(酸性触媒として作用)が抑制されたためと考えられる。一方、還元糖については、ポリエーテル中では通常の熱分解とは異なり、断片化生成物を選択的に与えることを既に見出していたが、6炭糖であるグルコースとフルクトースを用いてポリエーテル中220~250℃の温度域で反応生成物を詳細に検討した結果、C3化合物のグリコールアルデヒド(GA)、1,3-ジヒドロアセトン(DHA)及びC4化合物のエリトロース(ETR)、エリトルロース(ETRL)が高選択的に生成し、テトラエチレングリコール中での熱分解では、GAが最大41wt%、GHAが最大24wt%、ETRLが最大31wt%で得られることがわかった。これらは、制御熱分解による糖から生成可能なケミカルスとして期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目的は、水素結合を制御できる環境(例えばポリエーテル中)でのバイオマスおよびそのモデル化合物の反応性を明らかにすることであったが、研究実績の概要で述べたように、還元糖のみならず、非還元糖もポリエーテル中で熱安定化され、この現象が糖一般に認められるものであることを示した。また、還元糖は分子内により強い水素結合アクセプターであるアルデヒド基を持つことから、ポリエーテル中においても分子内水素結合を形成することが可能であり、その結果、断片化物を選択的に生成する。このような制御熱分解条件において得られるケミカルスの種類と収量を明らかにしており、研究の目的にに対して"おおむね順調に進展している"と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究の実施計画に沿って、研究を継続して進める。現在、水素結合制御に利用可能なものとして、いずれも非プロトン性であるポリエーテル及び芳香族化合物中での熱分解条件を見出しており、これらの具体的な熱分解制御への適用について研究を進めるとともに、熱安定化機構の解明研究も同時に進める。また、現在、糖を中心に研究を行っているが、今後、リグニンについても同様な検討を推進する。これらの研究を通して、有用ケミカルスの生産などについて具体的に検討し、新規なバイオリファイナリー技術の提案へと研究が進展させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
リグニンについての検討特に芳香族化合物を用い、リグニンの熱分解反応制御への適応性について検討を行う。また、熱分解制御か可能であれば、熱分解制御によるリグニンからのケミカルス生産の可能性について検討する。熱分解反応制御機構の解明ポリエーテル及び芳香族化合物中ではバイオマス成分の熱分解反応が大きく制御されるが、この理由としてこれらが水素結合アクセプターとして作用することでバイオマス成分へのプロトン供与が抑制される機構が考えられる。実際にこのような機構で熱分解反応制御が起こっているのかどうかについて、高温でのIn Situ IR測定、水酸基の重水素置換、水酸基の誘導体化などの手法を用いて検討する。
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