研究課題/領域番号 |
23658143
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉村 剛 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (40230809)
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キーワード | 食材性シバンムシ類 / 人工飼育 / 古材 / 生物劣化特性 / ナガシンクイムシ類 / ロンギホレン / ロンギカンフェニロン |
研究概要 |
本年度も引き続き食材性シバンムシ類の人工飼育を目指した生体試料の採集を鋭意実施するとともに、文化財建築物における虫害のモニタリングを開始した。また、ナガシンクムシ類の人工飼育法についても継続的検討を行った。さらに、古材の生物劣化特性についてもあわせて検討した。 1.食材性シバンムシ類の採集と人工飼育の試み:昨年度、全国のシロアリ防除業者及び文化財研究者に対する試料提供依頼を実施した。その結果、本年度の羽化シーズンにケブカシバンムシ試料を約30頭得ることができ、ヒラタキクイムシ用人工飼料への投入を行った。現在飼育室にて保管中である。 2.文化財建築物における虫害のモニタリング:重要文化財建築物である京都・島原の「角屋」において床下部材の虫害調査を実施し、さらに、各種市販粘着トラップ及びヒラタキクイムシ用人工飼料を床下に設置して継続的なモニタリングを開始した。冬季に回収したトラップから乾燥植物質摂食性のシバンムシ類が多く採集されたが、木材害虫については発見されなかった。また、複数の人工飼料に昆虫類の穿孔が観察され、来年の羽化シーズンに向けて飼育室にて保管中である。 3.ナガシンクムシ類の人工飼育法の検討:オオナガシンクイムシの人工飼育の試みとともに、新たに入手したチビタケナガシンクイムシについても飼育を開始した。その結果、両種ともヒラタキクイムシ用人工飼料での継代飼育が可能であることが確認された。特にオオナガシンクイムシについては、日本で初めての成功である。 4.古材の生物劣化特性の検討:クロマツ古民家解体材を入手し、その生物劣化特性について検討を行った。クロマツ古材は外層部ほど耐シロアリ性及び耐腐朽性が高いという興味深い結果が得られた。材に含まれるロンギホレンが酸化反応によってより生物活性の高いロンギカンフェニロンへと変化していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、昨年度に実施した試料提供依頼によりかなりの数のケブカシバンムシ試料を得ることができ、現在飼育室に人工試料とともに保管中である。次世代の発生へとつながることを期待しているが、現時点では成否は判断できないことから「(3)やや遅れている」と自己評価した。 さらに、より実践的な立場から、実際の重要文化財建築物を利用したトラップによる害虫モニタリングを開始し、木製文化財の総合的虫害防止に向けた取り組みを開始した。これは、日本で最初の試みである。 一方、オオナガシンクイムシとチビタケナガシンクムシの人工継代飼育についてはほぼ目途がついた。特に前者については、日本で唯一の成功である。 古材の生物劣化特性については、これまでまとまった研究が全く行われておらず、大変意義のある研究であると考えている。酸化反応、つまり材の老化によって生物活性の高いロンギカンフェニロンが生成していることが初めて明らかになり、古材の生物劣化特性に関する新しい局面を開いたと言える。 以上、当初の研究の目的から判断して「(3)やや遅れている」と自己評価をせざるを得なかったが、その後の新たな研究の展開と成果は高く評価できるものであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究の最終年度であり、以下の研究を集中的に実施するとともに、研究成果のとりまとめと公表を行う。 1. 引き続いて食材性シバンムシ類生体試料の入手を目指した取り組みを鋭意行うとともに人工飼育に関する検討を行う。全国のシロアリ防除業者及び文化財研究者に対して再度協力依頼を行う予定であるが、本研究に関する全国的な理解が得られつつあることから、今年度生体試料の入手の可能性がより高まることは間違いない。 2. オオナガシンクイムシ及びチビタケナガシンクイムシの人工飼育については、京都大学生存圏研究所・DOL(居住圏劣化生物飼育棟)/LSF(生活・森林圏シミュレーションフィールド)全国・国際共同利用研究プログラムに沿った全国の研究者による利用を念頭に置いた大量飼育を目指す。 3. 古建築物における虫害モニタリングについては、市販トラップ装置の維持・管理を定期的に継続実施するとともに、食材性昆虫トラップへの応用を目指した誘引性化学物質の探索を実施する。 4. 古材から特徴的に得られたロンギカンフェニロンについては、まずその合成を行い、あわせてその生理活性、具体的にはシロアリ、食材性昆虫及び木材腐朽菌への生理活性について検討する。特に、古材には食害を与えないことが知られているヒラタキクイムシ類や逆に古材への嗜好性の高いシバンムシ類への効果については、将来の低環境負荷型木材保存システムの開発につながるものであると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費(50万円)の使用計画は以下の通りである。 1. 物品費(30万円):人工飼育用木材・容器・薬品類並びに虫害トラップの購入代金 2. 旅費(10万円):生体試料採集および成果発表のための国内学会参加に関わる国内旅費(11月に神戸で開催予定の日本環境動物学会および3月に松山で開催予定の日本木材学会)、 3. その他(10万円):上記国内学会参加費及び研究成果の公表に関する印刷費
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