酵素糖化を介する木材からのバイオ燃料や化学品の生産では、リグニンの多糖への被覆をはずす高効率前処理法の開発が求められる。この目的のため、これまで様々な方法が検討されてきたが、マイクロ波感受性固体触媒反応を利用した例はない。本課題では、ヘテロ原子が金属酸素酸骨格に挿入されたヘテロポリ酸を合成するとともに、そのマイクロ波過酸化反応を開発して、木材中のリグニンを水溶液中で分解し、酵素糖化に適した糖鎖の分離とリグニンからの有用化学品の生産を同時に達成する。マイクロ波感受性ヘテロポリ酸触媒開発のため、微生物・酵素探索と同じく、機能を指標にした混合物からのスクリーニング法を導入する。即ち、結晶化物の構造決定から機能解析に進む錯体化学法では探索の対象が限定されるため、結晶化困難な錯体を含む合成混合物や部分精製物の反応解析から有用触媒を絞り出す開発法を組入れて、マイクロ波感受性バイオマス変換触媒の新分野を切り開く。本研究では、非フェノール型β-O-4二量体リグニンモデルを用いて、ヘテロポリ酸による分解実験を行った。ヘテロポリ酸としては、鉄タングステン酸の合成を行った。合成したヘテロポリ酸は、FT-ICRーMSで構造解析を行った。リグニンモデルの分解は、Biotage社製のマイクロ波反応装置を用いて行った。分解物は、GCMSで分析した。合成した鉄タングステン酸の他、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンタングステン酸をヘテロポリ酸として使用した。また、ルイス酸であるトリフルオロメタンスルホン酸も比較として使用した。その結果、触媒無添加では、70℃、170℃のどちらの温度でも分解しないが、これらの触媒を用いた場合は、分解が観察された。また、170℃の条件では、ジアステレオマー変換が起こることも見出した。さらに、触媒によっては、70℃でも分解する条件を見出した。
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