研究課題/領域番号 |
23658146
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
近藤 哲男 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30202071)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | セルロース / 微生物ナノ紡糸 / マイクロチャネル / ナノファイバー / ゲル / 三次元網目構造 |
研究概要 |
本課題は、細胞壁形成における上記のナノからマイクロサイズに至る繊維化システムをヒントにして、新たなナノ繊維化プロセスの構築に挑戦するものである。 研究代表者は、これまでに多糖高分子由来の種々のパターンを有する足場テンプレート上で、酢酸菌のセルロースナノファイバー分泌に伴う運動の制御を検討してきた。本課題はこのコンセプトを拡張させて、分泌ナノファイバーの自己組織化を誘導する。そのため、マイクロチャネル空間を用い、その中の流動場で酢酸菌を培養するという方法で、走行とファイバーの形状とを同時制御させ、ナノサイズで制御可能な新規の微生物紡糸システムまでへの展開を検討する。 酢酸菌が好気性菌であるため、本年度はまず、酸素に直接触れていない状態で、培地中の残存酸素を用いて菌のナノファイバーの分泌が可能かどうかを調べた。次に、得られるファイバー成分の同定、特徴を検討した。まず、液体培地表面をシリコンオイルにより被覆した酸素低供給環境下にて酢酸菌を培養した。その結果、産生量が少なくなったものの、酢酸菌が同様にセルロースナノファイバーを分泌することが明らかとなった。さらに、このセルロースナノファイバーの結晶構造を調べたところ、Ialpha結晶相がさらに多くなっており、その比率が80%近くまで至っていた。この原因は未解決である。また、そのファイバーは容易に架橋し、三次元網目状ゲル(ペリクル)を形成した。しかし、従来の培養により得られるものに比べ、架橋密度の低いものであった。次年度は、当初の予定のマイクロチャネルの構築に加えて、得られた低架橋密度ペリクルを一軸延伸し、ナノファイバーが配向したフィルム材料の創製も試みる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では、この菌の運動に注目するものの、足場を使うかわりにマイクロチャネル空間を用い、その流動場で酢酸菌を培養するという方法で、セルロースナノファイバーの菌体外への分泌に伴う走行方向を制御させる。この際、同時に、菌体一つ一つの分泌する50nm程度のナノファイバーが、通過するチャネルの幅(空間)ならびにパターンに応じて自己集合することになる。結果として、ナノからマイクロサイズでの任意に制御されたユニークな断面形状を持つセルロースファイバーの紡糸を可能とさせるシステム構築まで展開される。そのため、三段階の研究成果の積み重ねを必要とする。 平成23年度は、まず第一段階として、液体培地中の溶存酸素により酢酸菌のファイバー分泌が可能かどうかの検討を行った。9.の研究実績の概要に記述したように、液体培地表面をシリコンオイルにより被覆した酸素低供給環境下にて酢酸菌を培養した結果、産生量が少なくなったものの、酢酸菌が同様にセルロースナノファイバーを分泌することが明らかとなった。すなわち、最初のハードルはクリヤーできたことになる。さらに、得られたナノファイバーの結晶形態がこれまでに見られないものであったこと、そして、そのナノファイバーが容易に架橋し網目構造を形成するものの、従来の培養により得られるものに比べ架橋密度の低いものとなっており、さらなる機能化が期待できるものが得られたことが付加的成果として挙げられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度研究(第二段階)では、北森らの提案しているマイクロチャネルチップ作製法を適用して、いくつかのチャネルパターンをもつチップを作製する。このパターンとチャネル幅に依存して、分泌されたナノファイバーの集合形態が可変となるものと推定している。 マイクロチャネルのようなミクロ空間の特徴のうち、本課題において特に重要なのは、層流と呼ばれるチャネルを流れる微小流体の性質である。層流では、流線が流れの方向に平行となり、互いに交わらない。この層流がマイクロチャネルのリアクターとしての欠点とされているが、本課題においては、逆にこれを利点として用いる。すなわち、層流ができることで、酢酸菌が流れにのって、交差せずに一方向に走行する可能性を示している。このことが、ネットワーク形成を抑制する働きをして、最終的に一方向に配向した、いくつかのナノファイバーが集積した繊維構造が出来上がることになる。 マイクロチャネルを用いた紡糸手法は、チャネルのパターンに大きく影響を受けるものと考えられる。したがって、走行距離を長くとる、すなわち繊維長を長くするような折り返しパターンと、Y字型チャネルに代表される繊維を集積させて太いナノファイバーを形成させるパターンの両方を検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度研究(第二段階)では、マイクロチャネルの創製ならびにそのようなミクロ空間での繊維化の検討が主となる。現在までの達成度の項でも記述したように、平成23年度は予想以上の成果ならびに付加的成果を挙げることができたため、申請した研究計画に追加として、平成24年度は上述の当初計画より研究幅を広げる。そのため、米国・カリフォルニア大学デイビス校でHsieh教授の下で、研究代表者が繊維化についての共同研究を1か月間の予定で行う。当初予算の旅費の部分の増額ならびにその分の消耗品の減額を予定している。
|