研究課題/領域番号 |
23658146
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
近藤 哲男 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30202071)
|
キーワード | セルロース / 微生物ナノ紡糸 / マイクロチャネル / ナノファイバー / ゲル / 三次元網目構造 / 層流 |
研究概要 |
本課題は、細胞壁形成における上記のナノからマイクロサイズに至る繊維化システムをヒントにして、新たなナノ繊維化プロセスの構築に挑戦するものである。 研究代表者は、これまでに多糖高分子由来の種々のパターンを有する足場テンプレート上で、酢酸菌のセルロースナノファイバー分泌に伴う運動の制御を検討してきた。本課題はこのコンセプトを拡張させて、分泌ナノファイバーの自己組織化を誘導する。そのため、マイクロチャネル空間を用い、その中の流動場で酢酸菌を培養するという方法で、走行とファイバーの形状とを同時制御させ、ナノサイズで制御可能な新規の微生物紡糸システムまでへの展開を検討する。 酢酸菌が好気性菌であるため、昨年度はまず、液体培地表面をシリコンオイルにより被覆し酸素に直接触れていない状態で、培地中の残存酸素を用いて菌のナノファイバーの分泌が可能かどうかを調べた。その結果、産生量が少なくなったものの、酢酸菌が同様にセルロースナノファイバーを分泌することを明らにした。さらに、得られたファイバーも従来のナノファイバーと繊維構造の異なるものであることを明らかにした。 本年度は、実際にマイクロチャネルを構築し、その中で液体培地を送液させ、その乱流フローが層流になるような条件を検討し、酢酸菌が実際にマイクロチャネル中を流れに沿って分泌運動ができるかどうか調べた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題では、この菌の運動に注目するものの、足場を使うかわりにマイクロチャネル空間を用い、その流動場で酢酸菌を培養するという方法で、セルロースナノファイバーの菌体外への分泌に伴う走行方向を制御させる。この際、同時に、菌体一つ一つの分泌する50nm程度のナノファイバーが、通過するチャネルの幅(空間)ならびにパターンに応じて自己集合することになる。結果として、ナノからマイクロサイズでの任意に制御されたユニークな断面形状を持つセルロースファイバーの紡糸を可能とさせるシステム構築まで展開される。そのため、三段階の研究成果の積み重ねを必要とする。 平成23年度に、第一段階として、液体培地中の溶存酸素により酢酸菌のファイバー分泌が可能かどうかの検討を行った。液体培地表面をシリコンオイルにより被覆した酸素低供給環境下にて酢酸菌を培養した結果、産生量が少なくなったものの、酢酸菌が同様にセルロースナノファイバーを分泌することが明らかとなった。すなわち、最初のハードルはクリヤーできたことになる。さらに、得られたナノファーバーの結晶形態がこれまでに見られないものであったこと、そして、そのナノファーバーが容易に架橋し網目構造を形成するものの、従来の培養により得られるものに比べ架橋密度の低いものとなっており、さらなる機能化が期待できるものが得られたことが付加的成果として挙げられる。 平成24年度では、実際に2種類のパターンを有するマイクロチャネルを構築した。次いで、そのマイクロチャネル中で液体培地を送液させ、実際に活性を失わせた桿菌である酢酸菌を用いて、その乱流フローが層流になるような条件を検討し、最適条件を得た。一方、平成23年度に得られた低架橋密度ペリクルを一軸延伸し、異方性のユニークなナノファイバーフィルム材料の創製に成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度研究(第三段階)では、平成24年度に構築した2種類のパターンのマイクロチャネル中に層流形成条件で液体培地をフローさせ、パターンとチャネル幅に依存した分泌ナノファイバーの集合形態の変化を検討する。 マイクロチャネルのようなミクロ空間の特徴のうち、本課題において特に重要なのは、層流と呼ばれるチャネルを流れる微小流体の性質である。層流では、流線が流れの方向に平行となり、互いに交わらない。この層流がマイクロチャネルのリアクターとしての欠点とされているが、本課題においては、逆にこれを利点として用いる。すなわち、層流ができることで、酢酸菌が流れにのって、交差せずに一方向に走行する可能性を示している。このことが、ネットワーク形成を抑制する働きをして、最終的に一方向に配向した、いくつかのナノファイバーが集積した繊維構造が出来上がることになる。 マイクロチャネルを用いた紡糸手法は、チャネルのパターンに大きく影響を受けるものと考えられる。したがって、走行距離を長くとる、すなわち繊維長を長くするような折り返しパターンと、Y字型チャネルに代表される繊維を集積させて太いナノファイバーを形成させるパターンの両方を検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|