研究課題/領域番号 |
23658154
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中川 聡 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (70435832)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 深海底熱水孔環境 / 共生 / 生物間相互作用 / 環境応答 / バイオミネラリゼーション |
研究概要 |
本研究の目的は、インド洋の深海底熱水活動域カイレイフィールドに生息する鉄の鱗を纏う巻貝:スケーリーフットとその共生微生物を研究対象として、様々な飼育環境条件における(1)ホスト生物の組織特異的な発現遺伝子の時系列解析、(2)共生微生物の発現遺伝子解析と発現タンパク質の時系列解析を行なうことにより、本生物における環境応答機構を網羅解析するとともに、その磁性硫化ナノメタルの生成過程を解明することにある。 これまでの研究において、主にホスト生物のメタトランスクリプトーム解析を実施した。複数の環境条件下において船上飼育したホスト生物の組織から、ポリTカラムやリボマイナス技術等を用いてホスト生物に由来するmRNAを精製し、全トランスクリプトーム増幅法によりcDNAを調整した。それらを断片化や標識タグの付加等によりライブラリー化した後、次世代シーケンサーを用いて高速シーケンス解析を実施し、合計約11Mbの配列を取得することに成功した。得られた遺伝子配列をカテゴリー分類や相同性検索等に基づきアノテーションを行い、各々の船上飼育個体(および組織)に由来するライブラリーでの出現頻度を比較するだけでなく、以前同一の条件で解析した別種の巻貝(スケーリーフットと同一環境に生息する)における発現遺伝子プロファイルと比較することにより、スケーリーフットにおいて環境条件および組織特異的に発現する遺伝子群を同定することに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度は、計画していた目標を全て達成し想定以上の成果を得た。本年度は主に、インド洋の深海底熱水活動域カイレイフィールドに棲息する巻貝(スケーリーフット)のメタトランスクリプトーム解析を実施することに成功した。具体的には、複数の環境条件下において船上飼育したスケーリーフットの各組織から、ポリTカラムやリボマイナス技術等を用いて、ホスト生物に由来する高純度なmRNAを精製し、逆転写および全トランスクリプトーム増幅法によりcDNAを調整した。断片化や試料毎の標識タグの付加等によりライブラリー化した後、次世代シーケンサー(GS Junior)を用いて高速シーケンス解析を実施し、合計約11Mbの配列を取得することに成功した。 得られた遺伝子配列をカテゴリー分類や相同性検索等に基づきアノテーションを行い、各々の船上飼育個体(および組織)に由来するライブラリーでの出現頻度を比較するだけでなく、以前同一の条件で解析した別種の巻貝(スケーリーフットと同一環境に生息する)における発現遺伝子プロファイルと比較することにより、スケーリーフットにおいて環境応答に伴い組織特異的に発現する遺伝子群を網羅的に同定することに世界で初めて成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究において、主にインド洋の深海底熱水活動域カイレイフィールドに棲息する巻貝(スケーリーフット)の共生微生物を対象とするメタトランスクリプトーム解析を実施する。これまでの研究において使用した飼育個体を用いて、共生微生物含有組織から、ポリTカラムやリボマイナス技術等を用いて、共生微生物に由来する高純度なmRNAを精製し、逆転写および全トランスクリプトーム増幅法によりcDNAを調整する。調整したcDNAを断片化および標識タグの付加等によりライブラリー化した後、次世代シーケンサーを用いて高速シーケンス解析を実施する。得られる遺伝子配列をカテゴリー分類や相同性検索等に基づきアノテーションを行い、各々の船上飼育個体(および組織)に由来するライブラリーでの出現頻度を比較するだけでなく、以前同一の条件で解析した別種の巻貝(スケーリーフットと同一環境に生息する)共生微生物における発現遺伝子プロファイルと比較する。 これらの結果を前年度までの結果と総合することにより、スケーリーフット(ホスト生物および共生微生物の両者)において環境応答に伴い組織特異的に発現する遺伝子群を網羅的に同定することが可能となる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、スケーリーフットの共生微生物を対象とするメタトランスクリプトーム解析に75万円が必要である。具体的には、「今後の研究の推進方策」で述べた手法を用いて、スケーリーフットの共生微生物含有組織から作成したcDNAを物理的に断片化した後、各サンプルに固有のタグを付加し、次世代シーケンサーを用いて配列決定を行う。加えて、特異的な発現パターンを示した遺伝子を正確に定量するために必要なリアルタイムPCR実験関連試薬類として25万円が必要である。なお、定量PCRは北海道大学の現有設備を用いて行う。また、研究打ち合わせ旅費および成果発表旅費として20万円を使用する予定である。 なお、「収支状況報告書」における「次年度使用額」は、平成23年度に行なった高速シーケンス解析の費用(上述)である。当該解析データは平成23年3月19日に納品済みであるが、事務手続き上、費用の支払いが4月末頃の予定であるため、「次年度使用額」欄に記載している。
|