本研究の目的は、インド洋の深海底熱水活動域カイレイフィールドに生息する鉄の鱗を纏う巻貝:スケーリーフットとその共生微生物を研究対象として、様々な飼育環境条件における1) ホスト生物の組織特異的な発現遺伝子の時系列解析、2) 共生微生物の発現遺伝子解析と発現タンパク質の時系列解析を行なうことにより、本生物における環境応答機構を網羅解析するとともに、その磁性硫化ナノメタルの生成過程を解明することにある。 これまでの研究において、主にホスト生物(平成23年度)および共生微生物(平成24年度)のメタトランスクリプトーム解析を実施した。複数の環境条件下において船上飼育したホスト生物の様々な組織から、ポリTカラムやリボマイナス技術等を用いてmRNAを分画・精製し、全トランスクリプトーム増幅法によりcDNAを調整した。それらを断片化や標識タグの付加等によりライブラリー化した後、次世代シーケンサーを用いて高速シーケンス解析を実施し、合計10ライブラリから配列(計約860Mb)を取得することに成功した。得られた遺伝子配列をカテゴリー分類や相同性検索等に基づきアノテーションを行い、各々の船上飼育個体(および組織)に由来するライブラリーでの出現頻度を比較するだけでなく、以前同一の条件で解析した別種の巻貝(スケーリーフットと同一環境に生息する)における発現遺伝子プロファイルと比較することにより、スケーリーフットとその共生微生物において環境条件および組織特異的に発現する遺伝子群を同定することに成功した。なお、以上に関連する成果の一部は複数の学会や国際誌上で報告している。
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