研究課題/領域番号 |
23658156
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中嶋 正道 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20192221)
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キーワード | DNAメチル化 / 成長ホルモン / インシュリン様成長因子I / HSP70 / メチル化パターン / 高温耐性 |
研究概要 |
平成24年度は成長関連ホルモン遺伝子のクローニングと非致死高温処理による高温耐性の変化について実施した。 成長関連ホルモン関連遺伝子として成長ホルモン(GH)とインシュリン様成長因子I(IGF-I)を選定し、イントロン領域を含む全転写領域について塩基配列を決定し成長の異なるグッピーに系統間で配列およびメチル化パターンの比較を行った。比較に用いたのは本研究室でクローズドコロニーとして継代飼育されている大型のF系統と小型のS系統である。GHは612bp、204個のアミノ酸からなる翻訳領域が得られた。これらは6個のエクソンと5個のイントロンから構成されていた。翻訳領域内に系統間での差異は検出されなかったが、上流領域とイントロン内に変異が観察された。上流用域の変異と体長との間には弱い関連が見られ、系統間の体長差に対する寄与率は約30%であった。また、上流領域においてメチル化パターンの比較を行ったが系統差に起因する差異は検出できなかった。IGF-Iでは558bp、186アミノ酸からなる翻訳領域が得られた。これらは5個のエクソンと4個のイントロンから構成されていた。上流領域とイントロンに変異が観察されたが、系統差に起因する変異は観察されなかった。また、上流領域のメチル化パターンの系統間比較を行ったが、差異は観察されなかった。 環境適応能力の指標として高温耐性を用い、非致死高温処理による前処理が高温耐性へ及ぼす影響について調べた。実験にはWs系統を用いた。非致死高水温である35℃でグッピーを2時間処理すると致死水温である37℃での生存時間が未処理の平均2時間が6時間から10時間と3倍から5倍に増加した。この高温耐性の増加は処理後16日間維持されていた。HSP70タンパクの発現量は非致死高温処理後6時間後には低下しておりHSP70タンパクの蓄積によるものとは考えられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は概ね計画通り進行していると言える。本課題では1)系統間のメチル化パターンの成長関連形質および環境適応形質に関与する遺伝子におけるメチル化の影響評価、2)AFLP法を用いた網羅的解析、3)メチル化パターンに及ぼす餌料の影響評価を課題として挙げている。平成24年度に対象と想定していた3遺伝子(GH、IGF-I、HSP70)中2遺伝子(GH、IGF-I)について解析が終了した。残りのHSP70についてもクローニングは完了しているので、平成25年度中の解析は可能である。また、平成25年度には非致死高温処理がメチル化パターンに及ぼす影響についても解析する予定である。これは当初の予定には入っていなかった課題であるが非常に興味ある問題であるので本課題で解析を試みたいと考えている。2)の網羅的解析についても手法の確立に手間取っていたが、現在は手法として確立され、系統間比較や餌料の影響評価に用いることができるレベルに達している。飼育実験に関しても次世代を得るのに苦労し、平成24年度中に解析を開始することができなかったが、平成24年度より開始した飼育実験が平成25年度中に完了するので、飼育実験によるサンプルが得られ次第解析を開始したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の実施予定内容はAFLP解析による網羅的なメチル化パターンの解析である。この手法を用い系統間比較と非致死高温処理を行った際のパターン変化の有無の確認、メチル化パターンに及ぼす餌料の影響の解析を行う予定である。系統間比較では性格の異なる系統や成長、高温耐性など特徴がある系統間の比較を行いメチル化パターンの違いの影響を評価する予定である。HSP70遺伝子上流領域のメチル化パターンの系統差に関しても解析を行う予定である。非致死高温処理の影響評価は新たに加わった課題であるが興味ある事象であることから本年度の課題として取り組みたいと考えている。 今年度が本課題の最終年であることから、最終的なとりまとめの他に研究成果の公表(学会等における発表の他に論文としての公表等)に積極的に取り組んで行きたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費はAFLP解析が中心となる。そのための泳動関連試薬、シーケンス関連試薬、飼育関連機器が主となる予定である。このほかに成果発表のための旅費、英文校閲費、投稿料が必要となる。今年度の成果発表としては水産学会秋季大会(9月、三重大学、津市)、日本動物遺伝育種学会(10月、海洋大学、東京)、Aquaculture Conference(11月、Gran Canaria、Spain)、JSPS-NRCT Joint Symposium(12月、Bangkok、 Thailand) を予定している。
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