研究課題/領域番号 |
23658163
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松山 倫也 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00183955)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 春機発動 / Kiss / GnRH / GtH / マサバ / 神経ペプチド |
研究概要 |
1)2種のKiss(Kiss-1, Kiss-2)産生細胞の脳内局在:マサバの2種Kiss遺伝子をクローニングし、アミノ酸配列に基づきそれぞれの特異抗体を作製した。作製した2種のマサバKiss特異抗体を用い、脳内におけるKiss産生細胞の局在を免疫組織化学的に解析した結果、Kiss-1細胞は脳内に広く分布しているのに対し,Kiss-2細胞は視床下部にのみ存在することが明らかとなった。2)春季発動に伴う各種内分泌因子の遺伝子発現量の変動解析:春季発動に伴う雌マサバの脳における2種Kiss mRNA量の発現変化をreal-time PCRを用いて解析した。その結果、KiSS-2発現量は成熟に伴い減少し、産卵期後に最も低くなったが、KiSS-1の発現量は生殖周期を通して一定であることが明らかとなった。以上、1)および2)の結果より、マサバ雌ではKiss-2がBPG-axisの最上流で性成熟を制御していることが示唆された。3)2種生殖腺刺激ホルモン(FSH, LH)の測定系開発:マサバ成魚の脳下垂体(490尾)を採取し、糖タンパク質を抽出後、各種クロマトグラフィー、ゲル濾過に段階的にかけ、純度の高いFSHαβ, LHαおよびLHβを得た。精製物をウサギに免疫し、それぞれのポリクローナル抗体を得た後、ウェスタンブロットを行った結果、得られた抗体はそれぞれの抗原を認識することを確認した。4)Kiss投与による配偶子形成促進効果:配偶子形成前のマサバ雌雄(11月下旬採集)に対して,合成Kiss-1(15アミノ酸)およびKiss-2(12アミノ酸)をオスモティックポンプで徐放投与し,定期採集を行った。その結果、投与45日後で、Kiss-1投与の雄において排精が見られた。一方、雌ではいずれの実験区でも顕著な変化が認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度は5項目の研究を計画したが、以下、それぞれについて達成状況を述べる。 1)2種のKiss(Kiss-1, Kiss-2)産生細胞の脳内局在:作製したマサバKiss-1およびKiss-2の特異抗体を用いて、脳内におけるKiss産生細胞免疫組織化学的に解析し、それぞれの脳内局在を明かにした。ほぼ計画通りに進行し、当初の目標を達成できた。 2)採集したマサバの生殖腺組織切片標本作製およびにKiss受容体(GPR-54)の遺伝子クローニング時間を費やした結果、Kiss mRNA量のみの測定となった。3種GnRH,FSH-β,LH-β,FSH受容体,LH受容体は既に遺伝子クローニング済みである。3)2種GtHの測定系開発: FSHαβ, LHαおよびLHβのポリクローナル抗体を得た。ほぼ予定通りの進行である。 4)マサバへのKiss投与による春季発動促進効果:春機発動前のマサバ個体は養殖業者からの購入を予定していたが、実験をする十分量の材料の入手ができなかった。従って、実験4)に関しては進行していない。 5)マサバへのKiss投与による成熟・産卵誘導効果:配偶子形成前のマサバ雌雄に合成Kiss-1およびKiss-2を投与した結果、Kiss-1投与の雄において排精が見られた。ほぼ計画通りに進行し、当初の目標を達成できた。 以上、実験計画1)、3)、5)に関しては当初の計画通り進んでおり、実験計画2)はやや遅れており、実験計画4)に関しては遅れている、と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
24年度の計画は以下のとおりである。1)春季発動に伴う各種内分泌因子の遺伝子発現量の変動解析:23年度に測定できなかった、2種Kiss受容体(GPR-54),3種GnRH,FSH-β,LH-β,FSH受容体,LH受容体のmRNA量の発現変化をreal-time PCRを用いて解析する。2)春季発動に伴う各種内分泌因子の分泌動態解析:3種GnRHの脳内および脳下垂体内ペプチド量,血中FSHおよびLH量,血中estrdiol-17βおよび17,20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one(17,20β-P)量を測定する。血中FSHおよびLH量の測定法は、24年度中に開発する。3)マサバへのKiss投与による春季発動促進効果:春季発動前のマサバ雌雄(1歳)に対して,各種濃度の合成Kiss-1およびKiss-2を筋肉内投与し,定期採集を行う。脳,脳下垂体,生殖腺を採取し,2種Kiss,Kiss受容体(GPR-54),3種GnRH,FSH-β,LH-β,FSH受容体,LH受容体のmRNA量の発現変化をreal-time PCRを用いて解析するとともに,投与効果を生殖細胞の発達状態で判定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究は全体的に、当初の予定通り進行している。本研究中、最も難しいと予想されるのは、精製GtH(FSHおよびLH)を抗原にして作製したGtH抗体を用いた血中GtH測定系の開発である。23年度はFSHαβ, LHαおよびLHβのポリクローナル抗体を得た。得られた抗血清は、脳下垂体における免疫染色およびウェスタンブロットで、それぞれの抗原を認識することを確認した。しかし、一部交雑が認められ、血中測定用の抗体としては純純度が足りないことがうかがわれた。したがって24年度は、精製したFSHαβ, LHαおよびLHβをマウスに免疫し、それぞれのモノクローナル抗体を作製することを計画している。モノクローナル抗体の完成後、サンドイッチELISA法によるマサバの血中FSHおよびLH測定系の完成を目指す。モノクローナル抗体作製は専門会社に外注する予定で、24年度の研究費の大半はそれに使用する。
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