本研究の目的は、高輝度蓄光性顔料(ルミノーバ)を人工光源の代わりに利用することで、魚類の成熟を制御する新たな方法を開発することであった。実験魚としては、サンゴ礁浅海域に生息するルリスズメダイを用いた。ルミノーバの発光波長と同様の吸収波長帯をもつ光受容体分子(Rhodopsin)を遺伝子クローニングし、RT-PCRによる発現組織の特定を行った。その結果、この遺伝子が網膜と脳に発現することが確認された。Rhodopsin mRNAの網膜および脳における発現局在をIn situ hybridizationで調べた結果、網膜では外核層に、脳では間脳域の外側隆起核といった第三脳室周縁の細胞に発現シグナルが確認された。 昨年度においてはルミノーバを含むシートで水槽を被ってルリスズメダイの産卵期間延長に成功したが、本年度はルミノーバを含有するペレットを作成し、このペレットを非成熟期の魚(実験群)の頭部に装着した。対照群にはルミノーバを含まないペレットを同部位に装着した。明期12時間・暗期12時間の光周期と水温26℃の条件を与えて、実験群および対照群の魚を4週間飼育して生殖腺の発達を比較した結果、実験群の魚の生殖腺体指数は対照群のそれよりも増加していた。また、卵巣を組織学的に観察した結果、実験群の卵巣には卵黄形成途上の卵母細胞が観察できたのに対し、対照群の卵巣は周辺仁期の卵母細胞のみで占められた。ルミノーバを含むペレットは暗期開始後もしばらく発光していることから、実験群の魚は長日条件におかれていたと考えられる。先行研究で眼球除去したルリスズメダイを長日条件で飼育した場合に卵巣発達を誘導できたことから、脳深部に発現する光受容体がルミノーバで作り出された光を感受している可能性があった。以上の結果から、ルミノーバを利用して電気エネルギーの消費を抑えた魚類の成熟誘導が可能であると結論づけられる。
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