研究課題/領域番号 |
23658166
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
中村 將 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 名誉教授 (10101734)
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研究分担者 |
平井 俊朗 帝京科学大学, 生命環境学部, 准教授 (30238331)
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キーワード | ティラピア / 高水温 / 不妊化 / 養殖魚 |
研究概要 |
本年度は、モザンピーク・ティラピア(Sarotherodon mossambicus)を用いて高水温飼育による主に遺伝的雄の不妊化と不妊雄の生殖特性について明らかにした。孵化後3日目の稚魚を37±1°Cで;25、50、80日間飼育し、その後常温(25-30°C)で6ケ月以上飼育した。25日間高温飼育した約半数個体の生殖腺では生殖細胞が発達したが、残りの半数は不妊化していた。50と80日間飼育した雌雄の生殖腺は生殖細胞を全く持たない不妊あること確認した。このことから、モザンピーク・ティラピアでも高水温は不妊化をもたらすことを明らかにした。また、完全不妊化には約50日以上の処理が必要であることも明らかにした。高温処理した雄を常温で長期に飼育すると体全体が黒色を呈し、尾鰭の周辺が赤色を呈するティラピアの成熟雄特有の婚姻色を呈した。この成熟した雄と正常の成熟雌と同じ水槽で飼育したところ、雄は縄張りを形成し、産卵床を作り、雌と産卵行動を行った。雌は産卵した卵の口腔内保育を開始した。しかしながら、保育開始後4、5 日で口から卵を吐き出した。吐き出した卵を観察したところ、全ての卵は未受精の死卵あった。雄の生殖腺には精子を含む生殖細胞が全く確認されなかったが、精しょうを分泌する組織像が観察された。ステロイド代謝酵素のP450scc抗体を用いた免疫組織化学的観察においても多数の免疫陽性細胞が確認された。このことから、精巣を構成する性ホルモンを分泌する体細胞は高温により死滅すること無く生き残り、正常に機能しているものと考えられた。以上のことから、薬品等を使わなくても生殖細胞を全く持たないが、性的に成熟するティラピア雄を大量に作る簡単な方法を確立することが出来た。この不妊化雄の有効利用について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
温度による不妊化魚の大量最適誘導技術開発についてはティラピア2種を用いて開発に成功した。36-37度で約45日以上飼育することがあることを明らかにした。不妊化魚の成長機構については、雌では高温処理期間中は対照群と比べて成長が遅れるものの、常温に戻し飼育すると成長が回復して対照と比べて良いことを明らかにした。現在、以上の成果を論文として国際誌に投稿中である。 温度による生殖細胞の細胞死機構としては、形態的に見て長期間処理した生殖腺の生殖細胞の多くはアポトーシスと思われる形態変化を示していることから、アポトーシスによる細胞死であると判断された。 ティラピア以外の魚類の温度による不妊化については、現在までコイとグッピーに稚魚を高水温に暴露することにより行われて来たが、高水温では死亡する、少し温度を下げると不妊化に至らないなどにより不妊化の誘導に成功していない。 以上の結果以外に、ティラピアの不妊化雄は、精子を含む生殖細胞を全く持たないにも関わらず雄特有の婚姻色を呈し、縄張りを作り正常雌との間で産卵行動を行うことが明らかになった。しかし,産卵した卵は未受精の死卵であることを発見した。成熟不妊雄を放流することで自然界に散逸して野生化して在来種を駆逐して問題になっているティラピアの駆除の開発に発展できる可能性を示した。 以上のように計画された目的の多くは達成されている。また新しい研究分野の開拓も行われている。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年に渡り行った実験から、ティラピア2種では高水温(36-37度)で50日間以上飼育すると雌雄ともに完全に不妊化することが明らかにすることが出来た。一般に不妊化個体は成長が良いと期待されることから養殖魚としての期待が大きい。このため、本年度は養殖魚として適当であるかについてより詳細に検討する。ハワイ大学のGordon Grau教授は、長年に渡りティラピアの養殖のための基礎的研究を行っており成長に関しての様々な成果を報告している。本年度は、Grau教授との共同研究により不妊化魚の養殖魚としての適正について詳細に明らかにする。加えて、不妊化雄個体は性的に成熟することを明らかにした。不妊化雄の生殖特性をより詳細に解明して、これまでの成果と合わせて論文としてまとめ国際誌に報告する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、ハワイ大学との共同研究により不妊化魚の養殖魚としての適正について詳細に検討する。このためにハワイ大学との共同研究のための旅費として研究費を使用する。 今までの研究成果をまとめて国際学術雑誌に発表するための経費として使用する。その他、魚の飼育に関しての器具の購入に充当する。
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