研究課題/領域番号 |
23658168
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
江口 充 近畿大学, 農学部, 教授 (40176764)
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研究分担者 |
谷口 亮人 近畿大学, 農学部, 研究員 (10548837)
永田 恵里奈 近畿大学, 農学部, 助教 (20399116)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | クロマグロ養殖 / 造礁サンゴ / 水圏環境・保全 / 海洋細菌 / 共存共栄 / ブロモデオキシウリジン / チミジン |
研究概要 |
養殖場海域の細菌群は、残餌や養殖魚の排泄物等の有機物を分解・無機化する重要な生物である。近畿大学水産研究所奄美実験場のクロマグロ養殖のいけすロープには、造礁サンゴが大量に生育している。これは世界的に見ても珍しい。この造礁サンゴは、大量の粘液を放出する。本研究では、クロマグロ養殖場とそこに生育するサンゴとの相互関係を、サンゴ粘液と海洋細菌群の動態に注目して解析した。比較対象として、全く養殖の影響のないサンゴ礁域(和歌山県串本町)でも調査・研究を行った。 サンゴAcropora sp.とFavia sp.のサンゴ粘液を調査対象海域から採取した。粘液と海水の混合試料 (MuS)、ろ過海水試料 (MuFS: 海水細菌を取り除いた試料) および海水試料 (SW) を準備し、RI標識したチミジンで各試料における細菌増殖速度を測定した。その結果、Acropora粘液のMuS試料の細菌増殖速度は、MuFS試料とSW試料のそれを足したものよりも有意に速くなった (p < 0.01)。これは、Acropora粘液は海水細菌群の増殖を促したことを意味する。一方、Favia粘液のMuS試料の細菌増殖速度は、MuFS試料とSW試料のそれを足したものと、有意な差がなかった。これはサンゴ属の種類によって、海水細菌群に与える影響が異なることを示す。 Acropora sp.のサンゴ粘液を用いて、上述の各試料において増殖が促される細菌群を、ブロモデオキシウリジンを用いて特定した。MuS試料の細菌群集構造は、MuFS試料とは全く異なり、SW試料と類似していた。MuS試料で増殖した細菌種として、未培養alphaproteobacterium 2種を特定した。これらの細菌種はサンゴ粘液によって増殖が促されている重要な細菌種であり、新規な知見となった。今後、これらの細菌種が果たす生態学的役割を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「クロマグロ養殖とサンゴの共存・共栄への第一歩」というタイトルが示すように、海域に有機物負荷をかけるクロマグロ養殖と清澄な海域を好む造礁サンゴの共存は、通常難しい。この両者の共存が、本学水産研究所奄美大島実験場のクロマグロ養殖場では成立している。 サンゴはムコ多糖類を主体とした粘液を多量に放出する。この粘液中には、周囲の海水とは異なる細菌群集が多量に存在する。本研究では、クロマグロ養殖域の海水・サンゴ粘液それぞれの細菌群をメルクマールとして、他の物理・化学的な環境要因を合わせて解析し、クロマグロ養殖とサンゴの共存共栄を可能にする生態系メカニズム解明の端緒とする。 調査は和歌山県串本町のサンゴ礁海域(魚類養殖なし)と鹿児島県奄美大島(クロマグロ養殖場)で実施した。サンゴ礁海域の細菌群の動態に関する研究では、その実験手法自体が確立されておらず、まずその確立が重要課題となった。初年度は串本町での実験を通して、サンゴ粘液採取法をはじめとする様々な研究手法の確立に成功した。 クロマグロ養殖を行っている奄美大島での野外調査と環境試料の採取は、当初の予定通り5月と11月の2回実施した。採取した種々の環境試料はDNA抽出やフィルターろ過など使途に応じて前処理を施し、適切に保存している。平成23年度に確立した手法を用いて、今後解析を進めていく。本年度は、再現性の確認のため、昨年度と同じ手法で研究を遂行する。ただ、研究項目のうち、サンゴの分類と生産量の項目が十分とはいえない。分類については、Acropora sp.、Favia sp.、Goniastrea sp.がイケスロープでは優占し、特にAcropora sp.が目立って生育しているという目視観察に基づく評価は行っているが、定量的解析が不足している。本年度はこの項目も強化する。 このような状況から、「概ね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、クロマグロ養殖の端境期の5~6月と繁忙期の10~11月に奄美大島での野外調査を実施し、4月、8月、12月頃には串本町のサンゴ礁海域での野外調査を実施する。近畿大学水産研究所奄美大島実験場との協力体制も初年度に確立されたので、本年度は同様の調査手法により更に研究データの蓄積を図る。最終的に目指すのは、クロマグロ養殖海域の海水・サンゴ粘液それぞれの細菌群をメルクマールとして、他の物理・化学的な環境要因を合わせて考察することで、サンゴとクロマグロ養殖の共存共栄を可能にする生態系のメカニズムを明らかにすることである。 具体的な調査研究項目は平成23年度と同様、次のとおりである:1)多項目水質計(水温、塩分、溶存酸素、クロロフィル、濁度)による鉛直プロファイルの作成、2)各水深での採水(有機物量測定用と細菌群集解析用)、3)海水の流向と流速の測定(小型メモリー流速計使用)、4)海底泥試料の有機物量と硫化物量の測定、5)サンゴ粘液試料の採取(有機物量測定用と細菌群集解析用)、6)細菌群集の構造解析:各種プローブを用いた蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法及びPCR-DGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)法による解析とブロモデオキシウリジン(BrdU)を用いた増殖活性を示した細菌群のDGGE解析、7)イケスロープ上のサンゴの分類と生息量の評価(スキューバダイビング法による目視観察及び直接計測)
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次年度の研究費の使用計画 |
観測機器などの必要な備品類は全て初年度で揃え、また研究機関で元々保有しているため、次年度の研究費は全て、消耗品・調査旅費・実験補助の謝金・その他(機材搬送費)として使用する。 初年度に採取・前処理・保存した環境試料に加えて、本年度採取する環境試料の解析が必要になるため、物品費はすべてDGGE解析などに用いる試薬類やガラス器具類などの消耗品になる。旅費は奄美大島や串本町への調査旅費になる。室内実験での環境試料の解析が本年度は増えるため、室内実験の補助者が必要になる。
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