ドウモイ酸(DA)はある種の珪藻が生産する記憶喪失性貝毒の原因毒である。原因種のDA生産は生長が定常期を過ぎ栄養不足で死滅する直前に増加する。一方貝のDA蓄積と原因珪藻との関係を調べた研究では貝の毒化は原因珪藻のブルームが起こり、これが終了してしばらくした後に起こることが観察されている。この事実は貝のDA蓄積は珪藻の持つDAが捕食より貝に蓄積するのではなく、餌中のDAの誘導体あるいはDAを結合した何らかの成分が貝の体内で消化される過程で遊離するDAを蓄積している可能性を示唆する。 筆者らはDAに対する特異抗体を開発し、これを用いてP. multiseriesあるいは同種で毒化した貝類中のDA関連成分を検索した。毒化貝中にDA抗体と反応する高分子成分の存在を認めた。同様の成分は有毒Pseudo-nitzschia細胞より分離した細菌にも認められた。現状では明確に示すことは困難ではあるが、これらの事実はP. multiseriesで毒化した貝類あるいは原因生物であるP. multiseriesより分離した細菌中にDAに対する抗体と反応する高分子物質が存在することを示唆する。この事実はDAがある種細菌の生体成分の一部として存在すること。これらの事実は、P. multiseriesの細胞内に入り込んだ細菌が細胞内でで消化を受け、その過程でDAを放出することを示唆する。 本物質の正体を明らかにするためP. multiseriesより分離した細菌の培養細胞よりbuffer抽出物を調製し、これをDAに対する抗体を結合させたaffinity columnで精製したところ、抗DA抗体に反応する水溶性の高分子成分を得ることが出来た。本成分はDAの持つ242nmに吸収を示すが、280nmには全く吸収を示さないことから、多糖の可能性が考えられた。
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