日本沿岸海域アマモ場の主要な構成種であるアマモには,2つの繁殖型(一年生および多年生)が存在し,各繁殖型で構成される群落の形成・維持機構は大きく異なる.本年度は,環境要因がアマモの繁殖戦略に与える影響とアマモ繁殖戦略の分子機構を明らかにすることを目的として,以下の研究を行った. 1)屋外水槽培養による多年生アマモ発芽体の生長試験:多年生アマモ群落より採集した種子を春化処理区と未処理区に分け,各処理区の高温および低温発芽体を屋外水槽にて培養した.株密度,生長,花穂形成数に有意差が認められなかったことから,一年生アマモ草体とは異なり,多年生アマモ草体の繁殖様式に環境要因は大きく影響しないことが明らかとなった. 2)アマモの新規花器官形成遺伝子(MADSボックス遺伝子)の発現解析:昨年度単離された2種類のアマモMADSボックス遺伝子(SVP-likeおよびFUL-like遺伝子)の発現解析を行ったところ,両MADSボックス遺伝子がアマモ生殖株の葉身および茎で高発現していることが明らかとなった.これらMADSボックス遺伝子は,アマモ生殖株の形成・生長過程において重要な役割を果たしていると考えられる. 3)環境水温に適応したアマモ繁殖戦略に関わる遺伝子群の単離・同定:一年生アマモの繁殖様式を決定している主要因は,種子の発芽前後の環境水温と考えられている.そこで,春化処理・低温発芽体と未処理・低温発芽体,春化処理・高温発芽体と春化処理・低温発芽体の2試験区についてcDNAサブトラクションによる発現遺伝子の比較解析を行った.各発芽体間で発現差のみられた遺伝子cDNAの配列解析により,一年生アマモの繁殖戦略には転写調節因子,シグナル伝達系,分子シャペロンなどが関与していることが示唆された.
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