最終年度の研究目的は大きく2つある。一つ目は、排水量を人為的に制御できる閉鎖型構造を想定した転換畑地において、土壌水の水温や、用水量、地下水位といった灌漑水管理に関する項目が、N2Oガス放出量の変動と、その放出主体である硝化作用と脱窒作用への影響を明確にすることで、更なるN2Oガス削減を図るための水管理方法を検討することである。具体的には、野外ライシメータ試験を行った平成25年1月までの約6年間にわたる硝化と脱窒それぞれの微生物作用を起因とするN2Oガス放出量の変動特性を数値で明確にした結果、硝化由来のものが特に大幅に増加しており、硝化作用を抑制させる水土管理方法が示唆された。また作物の有無や地下水位の変動がN2Oガス放出量に与える影響を解析した結果、有意な相関が認められたことから、節水及び活性窒素除去能力を最大限に引き出すための圃場内水利量の経時変動予測式の導出と実地圃場での実証を試みた。 研究目的の二つ目は、活性窒素種削減の最大要因である脱窒量に関する精度の高い算出方法を求めることである。独立栄養型脱窒菌と従属栄養型硫酸還元菌との長期にわたる共生関係に着目することで、独立栄養型脱窒量と従属栄養型硫酸還元菌のCH2O消費量の関係式を新たに求めるとともに、地下水温と投入肥料の種類や量が、従属栄養型硫酸還元菌のCH2O消費量に与える影響を分析し、地下水温と投入肥料の種類と量を変数とした、独立栄養型脱窒量の予測式を数学的に導いた。 本研究によって、温室効果ガス排出低減と水質保全の持続可能性を目指した土壌水分環境条件を新たに明示できた。特に、閉鎖型汎用化圃場構造を有した転換畑地では、一般的な畑地と比べて2倍以上の温室効果ガスの放出量削減効果が期待できることを実証するとともに、土壌水分量との脱窒強度特性に着目することで、土壌水分環境条件と活性窒素除去量との総合的な解析に成功した。
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