研究課題/領域番号 |
23658190
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯田 俊彰 東京大学, 農学生命科学研究科, 講師 (30193139)
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研究分担者 |
大澤 和敏 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (30376941)
石田 朋靖 宇都宮大学, 理事 (00159740)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 地球温暖化ガス排出削減 / 環境調和型農林水産 / 土壌圏現象 / 農業工学 / 排水改良 |
研究概要 |
排水改良事業は土壌を好気化へ導きCH4放出を抑制する可能性が高い.そこで,過去の排水改良事業による湿地や水田からのCH4放出の増減を評価し,排水改良事業を地球温暖化の観点から定量的に評価することを目的として研究を行った. 千葉県の印旛沼土地改良区管内の押付地区を対象地区として選定し,土地改良区より関連資料を得た.押付地区では1978~1980年に事業費2億8300万円で排水改良事業が行われ,計画最大減水深は事業施工前には15mm/dで施工後には17mm/dと定められた.事業実施によるCO2排出量は,産業連関分析による原単位法で0.518t-CO2/(ha・y)と試算された.事業実施前後でのCH4放出量変化については,まず,カラム実験を行って稲の無い水田土壌での浸透速度とCH4放出量との関係式を得て,2mm/dの浸透速度増加によるCH4放出減少量を推定した.次にこの関係式が稲がある場合にも成り立つと仮定し,既往の研究による稲の有無によるCH4放出量の比率を乗じてCO2量に換算したところ,差し引きで-0.270~11.9 t-CO2/(ha・y)の削減効果が試算された. 一方,栃木県那須烏山市大木須地区に冬期湛水田と慣行田とを設け,通年で湛水する冬期湛水田を事業実施前,慣行田を事業実施後の状態とみなして圃場実験を行った.供試品種にコシヒカリを用い,それぞれの試験田に5種類の施肥区(化学肥料,無施肥,籾殻牛糞堆肥,稲わら,落葉堆肥)を3区画ずつ設けた.土壌呼吸による年間CO2放出量は冬期湛水田の方が小さかった.CH4放出量は,栽培期には冬期湛水田の方が大きかったが休閑期には両試験田とも小さかった.年間の,土壌呼吸によるCO2放出量とCH4放出量のCO2換算との和は,慣行田の方が冬期湛水田より小さく,事業実施によるGHG削減効果が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は,当初計画に沿って実施された.過去の排水改良事業の事例として,千葉県の印旛沼土地改良区管内の押付地区を対象地区として選定した.稲の無い水田土壌でのカラム実験から得た浸透速度とCH4放出量との関係を用い,本地区での事業実施前後の計画最大減水深の変化から,概算ではあるものの,差し引きで-0.270~11.9 t-CO2/(ha・y)のメタン放出削減効果が試算された.また,栃木県那須烏山市大木須地区の実際の圃場で事業実施前,事業実施後の水田の状態を再現して圃場実験を行った結果,事業実施によるGHG削減効果が示唆された.これらの結果により,当初の目的である,湿地,水田からの温室効果ガスの放出の増減を評価し,排水改良事業を地球温暖化の観点から定量的に評価することができた.したがって,研究はおおむね順調に進展していると評価される. しかし,現在までに行われた試算の過程では,稲の無い土壌でのカラム実験結果を稲の有る圃場に適用した点などにやや無理な仮定が含まれていることや,推定の不確定性が大きいことなどの問題が残っている.また,圃場実験においては,水田状態のより正確な再現が望まれる.これらの点を解消していくことにより達成度がさらに高まると思われる.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に行った試算では,稲の無い水田土壌でのカラム実験の結果を稲の有る場合へ適用した点や,推定の不確定性が大きい点などの問題が残った.また,圃場実験においては,水田状態のより正確な再現が望まれた.そこで,平成24年度には,稲を植えて行ったカラム実験により浸透速度とメタン放出量との関係を把握し,これを用いて排水改良事業前後のメタン放出削減量をより精密に推定する.圃場実験では,事業実施前後の圃場に関する情報から事業実施前後の圃場の状態を推定し,これをより正確に再現して実験を継続する.平成24年度には関東地方の他の対象地区を加え,平成23年度と同様の研究方法に沿って作業を進め,順次,選定した対象地区での排水改良事業実施による温室効果ガス放出抑制効果の評価を行う.ある程度の箇所数の地区の情報が収集されたら,これらを土壌特性や,事業前,事業後の圃場の状況によって,いくつかのグループに分類して類型化する.各類型での典型的なパラメータを求め,それを用いた事業評価手法の提示を試みる.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究費から次年度に使用する予定の研究費は無い.平成24年度の直接経費総額は800千円で,平成23年度の2200千円と比較して非常に少ない.カラム実験と圃場実験を行う際の消耗品費,研究打ち合わせと現地調査のための旅費,実験補助の人件費などに使用する予定である.
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