研究課題/領域番号 |
23658193
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
治多 伸介 愛媛大学, 農学部, 准教授 (60218659)
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研究分担者 |
中矢 雄二 愛媛大学, 農学部, 客員教授 (00036427)
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キーワード | 農村河川 / 医薬品汚染 / 生活雑排水 / 農業集落排水 / PPCP |
研究概要 |
H24年度は「農業集落排水施設導入による河川での医薬品濃度改善効果」と「その河川での底泥への医薬品蓄積状況の実態」を,愛媛県下の調査河川で検討した.その結果,集落排水への接続開始から約1年間(接続率20%程度)では,Ketoprofen(解熱消炎鎮痛剤)等の検討対象とした医薬品12成分のいずれについても,経時的な濃度低下傾向は明確とならなかった.この結果は,農村河川の医薬品濃度に対しては,集落排水接続率以外にも様々な影響因子があることを示し,医薬品濃度を低下させるためには,集落排水施設への接続率を十分に高める重要性が明らかとなった.接続率以外の医薬品濃度を変動させる要因としては,河川流下過程における光分解作用や医薬品使用量の時期的変化等が考えられた.降雨等によるSS濃度上昇は,SSに吸着している医薬品量が少ないために,河川水中の医薬品の濃度変動要因としては重要でないと考えられた.これらの研究成果は,平成24年度農業農村工学会中国四国支部奨励賞を受賞する栄誉を得た.一方,河川水調査地点の底質には,多様な医薬品が吸着していることが明らかとなった.多く吸着していた医薬品は,Benzophenone(紫外線吸収剤)やMethyl Jasmonate(合成芳香剤)等であった.これらは,全てKow(オクタノール/水分配率)が大きい疎水性の高い成分であり,底質での医薬品蓄積状況を改善し,底質内の生態系を保全するためには,疎水性が高い成分の集落排水による除去が重要であることが分かった.以上のように,本年度の研究では,これまで全く明らかとされていなかった「集落排水接続にともなう農村河川での医薬品濃度変化の実態と特徴」を解明するとともに,農村河川生態系の保全のためには,河川水に加えて「底質に対する医薬品対策も極めて重要であること」を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定であった「河川の水質調査」は,極めて順調である.ただし,「底泥調査」については,サンプリングは実施しているものの,分析作業が少し遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
「保存している底泥の分析作業」を早急に実施することで研究の効率化をはかる.それと並行して,当初予定であった「集落排水導入後の河川水質改善状況調査」を継続する.さらに,これも当初からの予定であった「集落排水施設でのPPCP除去状況」に関する調査も実施する.市役所の計画では,調査地区に存在する家屋の集落排水施設への接続は,H25年度末までに家屋60%の接続が予定されており,H25には,調査河川でのPPCP汚染状況の改善が顕著になることが期待される.さらに,H25年度は,当初予定であった「集落排水施設でのPPCP除去状況」も実施する.これは,調査河川のPPCP環境改善が行われたとしても,集落排水施設でPPCPが十分に除去できない場合には,集落排水処理水が放流される下流地域へPPCP汚染が転化されるだけとなるため,そのような危険性と対策の必要性を明らかにすることを目的としている.その際に検討する対象成分は,主にKetoprofen(解熱鎮痛消炎剤)とすることで,研究作業の効率化をはかる.Ketoptofenは,これまでの本研究で明らかとなった,調査河川での生態リスクが最も大きかった成分である.H25年度は,研究最終年度であるため,得られた結果を総括し,下水道未普及農村での「①PPCPへの対応の重要性」「②集落排水導入の効果と限界」「③集落排水以外の対策の必要性・可能性」を提示する.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究に使用する備品(LC/MS/MSなど)は全て揃っているため,研究実務にかかる費用は分析試薬の購入と人件費が主となる.また,本研究は3年目(最終年)となるため,成果発表を活発に行うための旅費と論文投稿費を計上している.
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