本研究の目的は,セルロース系バイオマスからのバイオエタノール生産において,セルロースの糖化酵素であるセルラーゼの使用量を大幅に低減する技術を開発することである。 平成24年度までの研究で,糖化反応の終了前の段階で糖化液と未糖化の固形分を分離すると多くの酵素が活性を持ったまま固形分中に存在していること,その固形分に残存する酵素活性は糖化に用いた基質の種類および酵素の種類により異なることを確認した。また,未糖化の固形分に残存する酵素を再利用するために,この未糖化固形分に基質と酵素を加えて糖化させるという処理を繰り返す糖化プロセスを開発した。本糖化プロセスでは,未漂白クラフトパルプを基質とした場合に生産グルコースあたりの酵素使用量が50%削減できることが明らかとなった。平成25年度は,これらの結果をもとに未漂白クラフトパルプを原料とした仮想大規模エタノール製造プロセスを設計し,未糖化固形分に残存する酵素を再利用する場合としない場合のエネルギー回収率,二酸化炭素排出削減量,エタノール製造コストを推算した。このエタノール製造プロセスでは,最適条件において,原料1t(絶乾重量)あたり,220Lのエタノールが製造され,余剰蒸気が2.7GJ発生すると推算された。未糖化固形分に存在する糖化酵素の再利用した場合のエネルギー回収率は37%,二酸化炭素排出削減量は原料1tあたり475kgであり,再利用しない場合のエネルギー回収率32%,二酸化炭素排出削減量400kgと比べ,エネルギー回収率,二酸化炭素削減効果ともに向上することが確認された。また,エタノール製造コストでは,酵素価格が酵素タンパク1kgあたり1000円~5000円でエタノール1Lあたりの製造コストが20~40%削減できることが明らかとなった。
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