研究課題/領域番号 |
23658201
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
清水 浩 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50206207)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 受粉 / 非接触 / ハチ / トマト / 温室 |
研究概要 |
研究初年度の23年度は,トマトを供試植物として花の固有振動数など機械振動受粉に必要な基礎的データを得るための実験を実施した。振動数と振幅を任意に変えることができる加振機(WaveMaker05,旭製作所)を本課題の主要備品として購入し,加振機出力軸をトマトの茎に直接固定して,5(Hz)から50(Hz)まで5(Hz)毎に振動させ,花の振動をCCDレーザ変位計(LK-500,キーエンス)によって実測した。この際,加振機の振幅が0.1mmになるように加振機へ供給する電流を調節した。振幅の生データからフーリエ変換を行いデータが有している特徴的な周波数を抽出した。その結果,供試トマトでは振幅が最大になる周波数が約30(Hz)であることが明らかとなった。そこで次に,この振動数の振動を非接触で与えるため,市販のスピーカ(DSW-300SG-Kサブウーハー,DENON)を用いて花を加振することにした。まず,ファンクションジェネレータからの正弦波をスピーカから流し,騒音計によって音圧レベルを測定したところ,周波数に依存していることがわかった。また,目標としている30(Hz)では,スピーカダクト面から10cmで約70dB,20cmで約60dBの音圧であることが明らかとなった。続いて,ダクト面から5,10,15cm離れた位置にトマトの花を設置し,スピーカから10~50(Hz)の正弦波を5(Hz)毎に流し,花の振幅を測定したところ,5cm話した場合には30~35(Hz)で0.1mmの振動を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の内容はおおむね順調に進展している。申請段階での本研究の具体的な研究計画は,実験操作の行ないやすさを考慮し,施設内で栽培されているトマトとイチゴ等を対象とし,以下の手順で機械的な人工受粉の有効性を定量的に明らかにすることとなっている。その手順とは,「(1)花粉の可視化装置の開発」を行ない,同装置を用いて「(2)雄しべの固有振動数の計測」を実施し,花粉飛散の程度を定量化し,最適な振動数を決定する。「(3)空気振動により雄しべの機械的振動」を行ない,受粉成功率を調査する,である。実際に初年度で得られた成果としては,上記の(1)と(2)をほぼ達成できており,トマト植物の花の基本的な固有振動数や振幅などの振動特性について定量的に評価できた。このデータをもとにスピーカを利用して効果のある振動数における音圧レベルとスピーカダクトからの距離についても実測を済ませており,空気を振動させるという非接触法によってトマトの花を振動させることが可能であることを確認している。(2)のうち花粉飛散の程度を定量化するという部分は2年目に実施予定であるが,これを実現するための具体的な方法も見出している。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目については,振動によって受粉ができているのかどうかを確認するため,マイクロスコープを使い,トマト花の柱頭の状態を観察し,受粉の程度を数値で表現するための手法を開発する。花粉の飛散程度の定量化・雌しべ受粉状態の定量化については,23年度に開発したの装置を用いて,雄しべの固有振動数で振動させた場合の花粉の飛散の程度,および雌しべへの受粉状態を可視化装置で定量的に評価し,この実験を繰り返し行ないそれぞれのトマト植物の受粉適期の花における最適な振動数を決定する。また,受粉させたあとの雌しべをマイクロスコープカメラで観察し,受粉状態を観察する。ここまでに求められた最適な振動数で雄しべを振動させるための空気振動装置を開発する。空気を通して縦波として伝わる力学的エネルギーの変動が大きいほど効果があると考えられるが,花粉など非常に質量の軽いものに対しては,瞬間音圧が効果的なのか,あるいはこれのRMSをとった平均音圧が有効であるかは,実験によって確かめる必要がある。また有効な周波数も現段階では明らかでないので,全帯域のフルレンジスピーカーを植物に近接させ,それぞれの固有振動数で振動させるシステムを開発する。その後,トマトの振幅,作用させる音圧レベル,受粉程度の関係を定量化し,どの程度の音圧レベルで振動させればよいのかを調べ,それを実現するための手法について具体的に考案する。実際に現場で利用することを念頭に,提案する手法を採用した空気振動装置を試作し,その性能を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では画像処理によって受粉の状態を解析する予定であったが,その後コンピュータに直接接続できるマイクロスコープの市場調査をしたところ,USB接続できるマイクロスコープが安価に入手できることが判明し,実験方法の一部を変更したことや,それに伴って電子部品や光学部品の購入額も小さくなったため,23年度に残額が生じた。この残額については下記のように2年目に試作する装置の設計等に使用する。2年目の研究経費としては,主として植物近傍の空気を振動させるための装置の試作に使用する。現場での利用を念頭において,単に音響スピーカユニットを制作するのはなく,受粉のために花のまわりの空気を積極的に振動させるという機能に特化した装置を試作する。振動子などは市販のものを流用できない可能性もあるため,これらの部分については特別に設計し試作する。また,本研究における成果を国内外で開催される学会で発表するための旅費にも使用する予定である。
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