現在の農作物は露地・温室の双方でハチによる受粉に依存している。しかしながら,ここ数年ハチが突然失踪するという現象が数多く報告されており,農業生産への影響が懸念されている。本研究は,ハチによる受粉の代替技術として,空気振動という物理的手法を利用した受粉手法および装置の開発のために,トマトとイチゴの2品目について受粉に適した振動数の探査と,受粉および着果への効果の検証を目的とする. まず,加振機を用いて加振部を植物体に接触させて花器の固有振動数を求めた。その結果,トマト4品種(トゥインクル,リトルサマーキッス,CF千果,ペペ)では30~35Hzで共振することが明らかとなった。次にスピーカを用いてこの共振周波数で非接触振動させた。イチゴについても同様の実験を行った。受粉の成否を確かめるため,振動を与える前後にマイクロスコープで柱頭を230倍率で撮影するとともに,イチゴについては1つの花床上に複数の雌ずいを有するため正常果として発達するためにはこれらが均一に受粉することが必要である。そこで果実の形状評価も行うことで,非接触振動の効果を調べた.トマトの接触振動の実験で,同程度の大きさの品種の花器について振幅がピークとなる共振周波数は等しく,今回の実験では30 Hzでより多くの振幅を出すことができた.しかし,振動の負荷が原因とみられる花器の離脱が散見された他,着果率は実際のハチを利用した商業栽培における着果率を下回った.非接触振動の実験では入力→音圧レベル,出力→振幅の周波数応答として比較すると,周波数が小さいほど振幅が大きくなるという傾向を示した.そこで,スピーカから5cmの距離で計測した振幅で比較すると,30~40Hz辺りを中心に高くなっていることが判明した。イチゴの非接触振動については,加振後に新たな花粉の付着(受粉)が観察され,加振によって受粉が促されていることが明らかとなった。
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