研究課題/領域番号 |
23658207
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大下 誠一 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (00115693)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 非破壊計測 / 蛍光 / 可視化 / 水和物 / キセノン |
研究概要 |
蒸留水を用いて水の構造化の程度の可視化を検討した。上下面に顕微鏡観察用の耐圧石英ガラスを有した耐圧試料容器を用い、落射型蛍光顕微鏡を用い, 蛍光画像を高速ビデオカメラにより5枚/秒で撮影した。この方法で、励起光照射直後の蛍光画像を取得(照射後0.2秒以内の画像)することにより、蛍光照射直後の時間に依存した褪色の抑制を図った。 蛍光試薬には, フルオレセインのナトリウム塩である水溶性のウラニン(C20H10Na2O5)を用いた。濃度を5×10-3~5×10-13M に調整したウラニン溶液を耐圧試料容器に密封し、1℃で初期Xe分圧を水和物形成条件を越える0.30~1.0MPaに調整して、疎水性水和による水の構造化を図った。 検討した第1の点は、蛍光強度を比較する上で障害となる蛍光の時間依存性褪色の影響であった。このため、上述のように、励起光照射後0.2秒以内の画像を取得した。さらに、励起光照射口のシャッターを閉じて次の蛍光画像を取得するために励起光を再度照射するまでの待機時間が蛍光退色に関係する。そこで、蛍光画像取得の待機時間を検討した結果、1時間の間隔をおけば蛍光退色が避けられることが示された。こうして再現性のある蛍光強度(蛍光画像の平均の輝度値)が得られる条件を決定した。第2はウラニン濃度である。これは、5×10-3~5×10-13M の範囲で蛍光強度の変化が画像に最も敏感に反映される濃度条件を探索した。その結果、水和物が形成される前の液状水の場合は、ウラニン濃度が低いほどキセノンの溶解に伴う水の構造化による蛍光退色が顕著であることが示された。しかし、水和物と液状水が混在した状態では、ウラニン濃度が高いほど液状水の蛍光強度が強いため、水和物との識別が容易であった。この結果、水和物形成を検知するために最適なウラニン濃度は5×10-5~5×10-7Mの範囲にあると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
蛍光画像を利用して、水の構造化の程度及び気体水和物の形成過程を可視化することを目的とした。まず、水に無極性気体を溶解させると水分子の熱運動がバルク水よりも抑制された状態になり、水の構造化が進む。この現象に関して、ウラニン濃度5×10-7M、温度1℃、キセノン分圧0.7MPaの条件で蛍光画像を経時的に取得した結果、水の構造化がすすむにつれて蛍光強度が減少することが示された。これにより、蛍光強度を利用した水の構造化の程度の検出が定性的に可能となった。今後、定量的な検出を検討する。次に、キセノン水和物の結晶が一部に形成された場合に、水和物と液状水とが蛍光強度の差異として識別できることが示された。これらのことにより、目的はおおむね達成されたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度にキセノン水和物と液状水が混在した状態において、蛍光画像の強度の差異から水和物と液状水の識別ができたが、可視光画像とのマッチングにおいて不明瞭な点が残った。今年度は、蛍光画像と可視光画像との対応をより詳細に検討する。また、細胞内での水和物形成過程の蛍光画像による観察を本年度の目的としているが、ウラニンが植物細胞膜を透過しないので、ウラニン分子が透過できる大腸菌(コンピテントセル)を用いて、細胞内における水和物形成実験を行う。コンピテントセルはプラスミドなどの余分な付属品がついてくることが多いが、'Competent Quick DH5α'は大腸菌のみを入手できる上に、大腸菌の中で最も安全なK12株から作成したもので、DNAを取り込みやすいように加工されていることから、ウラニンが容易に取り込まれると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
水の構造化や水和物結晶の形成に用いるキセノンガスが高価であること、同時に、コンピテントセルも高価であることから、これらに多くを充てる。また、学会発表など、学会参加旅費に使用する。
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