研究課題
本研究は、脳内において性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)のサージ状分泌を制御する中心的な神経ペプチドとして注目されているキスペプチンに着目し、エストロジェンの正のフィードバック作用を仲介する脳のキスペプチン神経系の機能不全が家畜の卵胞嚢腫の発生機序であることを明らかにすることを最終の目的とする。 平成23年度は、脳領域特異的なキスペプチン遺伝子(KISS1)改変動物の作出に向けた基盤的知見を集積するため、ヤギKISS1プロモーター領域を同定することを目的として、ヤギKISS1のゲノム構造を明らかにすることを試みた。シバヤギ血液から採取したゲノムDNAサンプルを用いて、ゲノムウォーキング法によりヤギKISS1上流域を解析したところ、翻訳開始点の約3 kb上流までの塩基配列を取得できた。現在、さらに上流域の配列を取得するために、解析を続けている。今後は、翻訳開始点の約5 kb上流域までの塩基配列の取得を目標とし、それらの情報に基づいてヤギKISS1プロモーター領域と転写調節因子の同定を目指す予定である。具体的には、当研究室により現在開発中のヤギ視床下部不死化細胞株またはマウス視床下部不死化細胞株を用い、ルシフェラーゼアッセイによりヤギKISS1プロモーター領域およびKISS1遺伝子転写調節メカニズムを解析する。ヤギKISS1のゲノム構造およびプロモーター領域の情報は、KISS1プロモーター領域下流のエクソンをはさむイントロン部分にloxP配列を配置したコンストラクトを作成するために活用できる。
3: やや遅れている
研究計画では、平成23年度にはヤギゲノムライブラリー(ヤギBACクローン)を利用して、ヤギKISS1のゲノム構造を明らかにすることを予定していた。しかし、フランスの研究グループにより配布されているヤギBACクローンにおいて、現在RT-PCR解析に用いているプライマーセットを利用してKISS1配列が見いだせないことが判明した。そのため、ゲノムDNAサンプルを用いたゲノムウォーキング法によるKISS1上流域の解析を行うこととした。その結果、KISS1上流域の解析の着手に時間を要したため、遺伝子改変(KISS1-floxed)ヤギ作出のためのDNAコンストラクトの設計まで実施することはできなかった。 一方、ゲノムウォーキング法によるヤギKISS1上流域の解析は概ね順調に推移している。ヤギKISS1プロモーター領域の解析については、現在開発中のヤギ視床下部神経細胞由来の不死化細胞株を用いた詳細な解析を計画しており、ヤギKISS1発現調節機構が解明できると期待している。
本研究では、ヤギKISS1のゲノム構造を明らかにすること、および、その情報に基づいてKISS1に特異的に結合するジンクフィンガーヌクレアーゼを設計し、KISS1エクソンをはさむイントロン領域にloxP配列を導入した宿主細胞(ヤギ下垂体細胞)が確立した後に、体細胞クローン技術により遺伝子改変(KISS1-floxed)ヤギを作出することを目的としていた。しかし、ジンクフィンガーモチーフの設計は配分された研究経費では十分でなかったことからその利用を断念した。今後は、代替策としてヤギKISS1のゲノム構造からプロモーター領域を同定し、その下流にloxP配列を配置することで遺伝子改変ヤギを作出することを考えている。そのため、平成23年度にはヤギKISS1プロモーター領域と転写調節因子の同定ために、ヤギKISS1のゲノム構造の解明に着手した。
平成23年度は、高額な経費支出が考えられたジンクフィンガーヌクレアーゼモチーフの設計を断念したこと、および、ヤギBACクローン利用の代替策として用いたゲノムウォーキング法の活用によるKISS1上流域の解析に着手するのに時間を要したため、次年度使用額として約43万円を計上することとなった。平成24年度に請求予定の50万円は、ゲノムウォーキング法によるKISS1上流域のさらなる取得、および、不死化細胞株を用いたヤギKISS1プロモーター領域およびKISS1遺伝子転写調節メカニズムの解析のための試薬類、プラスチック消耗品類などの遺伝子実験用資材の調達には十分とは言えないため、次年度使用額を合わせて使用し、本研究計画を円滑に推進するために活用する。
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