研究課題
本研究は、脳内において性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)のサージ状分泌を制御する中心的な神経ペプチドとして注目されているキスペプチンに着目し、エストロジェン(E)の正のフィードバック作用を仲介する脳のキスペプチン神経系の機能不全が家畜の卵胞嚢腫の発生機序であることを明らかにすることを最終の目的とする。今年度は、脳領域特異的なキスペプチン遺伝子(KISS1)改変動物の作出に向けた基盤的知見を集積するため、前年度に引き続いてヤギKISS1プロモーター領域を同定することを目的として、ヤギKISS1のゲノム構造を明らかにした。雌シバヤギから血液を採取し、抽出したゲノムDNA試料を用いて、ゲノムウォーキング法によりヤギKISS1上流域を解析し、推定翻訳開始点の約3 kb上流までの塩基配列を取得した。現在、さらに上流域の配列を取得するため、解析を続けている。今後、この情報に基づき、ルシフェラーゼアッセイによりヤギKISS1プロモーター領域とKISS1遺伝子転写調節因子の同定を行う。ヤギKISS1のゲノム構造およびプロモーター領域の情報は、脳領域特異的なKISS1遺伝子改変ヤギの作出に活用する。さらに、性腺を除去した雌雄の成熟シバヤギを用いて、高濃度のEを16時間連続的に投与し、雌雄ともに黄体形成ホルモン(LH)サージが誘起されることを確認するとともに、高濃度E投与により視索前野キスペプチンニューロンにおけるc-Fos共発現率が上昇することを明らかにした。この結果は、視索前野のキスペプチンニューロンがEの正のフィードバック作用を仲介し、GnRH/LHサージ発生機構に関与することを示唆している。これにより、視索前野特異的なKISS1遺伝子改変ヤギが作出できたときのin vivo表現型解析系が確立できた。
3: やや遅れている
研究計画では、平成24年度にはヤギKISS1のゲノム構造を明らかにし、視索前野特異的なキスペプチンニューロンのコンディショナルノックアウトにより卵胞嚢腫モデルヤギを作出することを予定していた。当初はヤギゲノムライブラリー(ヤギBACクローン)を利用して、ヤギKISS1のゲノム構造を明らかにする予定であったが、フランスの研究グループにより配布されているヤギBACクローンがKISS1遺伝子ゲノム構造解析に利用できないことが判明した。そのため、ゲノムDNAサンプルを用いたゲノムウォーキング法によるKISS1上流域の解析を行うこととしたが、KISS1上流域の解析に時間を要しているため、ヤギKISS1の発現調節機構の全容解明とKISS1遺伝子改変ヤギの作出に予想以上の時間を要している。一方、高濃度E投与によるLHサージ誘起を指標としたin vivo表現型解析系は今年度までに確立できたため、視索前野特異的なKISS1遺伝子改変ヤギが作出できれば、迅速に表現型解析に着手できる目処はたった。
本研究では、ヤギKISS1のゲノム構造を明らかにすること、および、その情報に基づいてKISS1に特異的に結合するジンクフィンガーヌクレアーゼを設計し、KISS1エクソンをはさむイントロン領域にloxP配列を導入した宿主細胞(ヤギ下垂体細胞)が確立した後に、体細胞クローン技術により遺伝子改変(KISS1-floxed)ヤギを作出することを目的としていた。しかし、ジンクフィンガーモチーフの設計は配分された研究経費では十分でなかったことからその利用を断念した。今後は、代替策としてヤギKISS1のゲノム構造からプロモーター領域を同定し、その下流にloxP配列を配置するための相同組換え技術を活用することで遺伝子改変ヤギを作出することを考えている。そのため、ヤギKISS1プロモーター領域と転写調節因子を同定することを目的として、ヤギKISS1のゲノム構造の解明を引き続き行う。視索前野特異的なKISS1遺伝子改変ヤギが作出できたときのin vivo表現型解析系は、今年度までに確立できたため、視索前野特異的なKISS1遺伝子改変ヤギが作出できれば、迅速にその表現型解析に着手できる。
平成24年度は、ヤギBACクローン利用の代替策として用いたゲノムウォーキング法の活用によるKISS1遺伝子上流域の解析に時間を要し、試薬類の購入費が予想以上に少なかったため、次年度使用額として約24万円を計上することとなった。平成25年度に請求予定の50万円は、ゲノムウォーキング法によるKISS1上流域のさらなる取得、および、当研究室により現在開発中のヤギ視床下部不死化細胞株を用いたヤギKISS1プロモーター領域およびKISS1遺伝子転写調節メカニズムの解析のための試薬類、プラスチック消耗品類などの遺伝子実験用資材の調達には十分とは言えないため、次年度使用額を合わせて使用し、本研究計画を円滑に推進するために活用する。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 2件)
Small Ruminant Research
巻: 105 ページ: 273-276
10.1016/j.smallrumres.2012.01.007
Journal of Reproduction and Development
巻: 58 ページ: 700-706
10.1262/jrd.2011-038
General and Comparative Endocrinology
巻: 175 ページ: 432-442
10.1016/j.ygcen.2011.11.038
巻: 58 ページ: 44-50
10.1262/jrd.2011-012
家畜診療
巻: 59 ページ: 387-393