マウスおいて、全能性を示すiPS細胞の樹立が報告され、その後、様々な種においてiPS細胞の誘導が試みられているものの、本研究の申請時には全能性を持ったラットのiPS細胞は樹立されていない。全能性を持った細胞は、遺伝子欠損動物の作製に欠かせないもので、モデル動物の作製を介して基礎医学の発展にも非常に有用な試料となる。現在までに安定した遺伝子欠損動物の作製が可能なのはマウスのみであり、マウスより一回り大きいためにモデル動物としての有用性が高いラットでは遺伝子欠損動物の作製が非常に困難な状況にある。その原因は、始原生殖細胞を含むすべての細胞に分化可能な多能性幹細胞が、ラットでは樹立されていないためである。 これまでに我々は、iPSの誘導に重要な5つの遺伝子がテトラサイクリンによって誘導できる世界で唯一の遺伝子導入ラットの作製に成功している。このラットから調整した繊維芽細胞は、iPS誘導実験においてウィルスベクターなどを必要とせず、培養液にテトラサイクリンを添加するだけでiPSを誘導でき、その質を上げるための薬剤スクリーニング系として非常に有用である。よって、本申請では、遺伝子欠損ラット作製のため、誘導型再生医療ラットを利用して全能性をもったiPS細胞を樹立することを目指した。 誘導型再生医療ラットは3系統樹立されており、この遺伝子のホモ化のための交配を進めた。しかし、ホモが数個体できたもののホモ同士では交配ができず、また長期に飼育すると皮膚がんを発生した。そこで、iPS誘導のキーファクターであるラットNanog遺伝子の発現メカニズムを解析し、ラットNanog遺伝子周辺に約20か所の新規Oct4結合配列を同定した。これまで知られていたプロモーター上のOct4結合部位以外に多数のOct4結合領域が存在することが、iPS誘導に重要な役割を担っていると考えられる。
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