研究課題/領域番号 |
23658228
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
三谷 匡 近畿大学, 先端技術総合研究所, 教授 (10322265)
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キーワード | 体細胞核移植 / リプログラミング / ヒストン |
研究概要 |
本研究では、核内高次構造の機能に着目し、体細胞クローン胚の初期発生におけるエピゲノム動態を検証し、それを手がかりにクローン技術における人為的初期化誘導技術の開発をめざすことを目的とする。本年度は以下の研究を行った。 1.卵丘細胞由来体細胞クローン卵子のヒストン構成の解析 ヒストンH2A.Zは生存に必須であるが初期発生では発現していない。したがって、核移植によるリプログラミング過程では、ドナー細胞に由来するヒストンH2A.Zがクロマチンレベルの制御機構に大きく影響していると考えられる。平成23年度は、マウス体細胞核移植(SCNT)卵子におけるヒストンH2A.Zの動態とトリコスタチンA(TSA)による影響について検討し、ドナー細胞とする卵丘細胞から持ち込まれたヒストンH2A.Zは、SCNT卵子でも1細胞期から胚盤胞期まで存在すること、そしてTSA処理によりSCNT卵子でも1細胞期から4細胞期でH2A.Zが消失することを見出した。平成24年度は、TSA処理がSCNT胚のヒストンH2Aバリアントに及ぼす影響について解析を進めた。その結果、TSA処理の有無にかかわらず、SCNT胚の初期発生ではヒストンH2AおよびH2A.Xの動態に顕著な変化はみられなかった。本研究により、TSA処理によるSCNT胚でのヒストンH2A.Zの除去については、H2Aバリアントに対する選択性をもつことが示された。 2.ドナー細胞のクロマチン構成におけるヒストンH2A.Zの人為制御 ドナー細胞のリプログラミング誘導の効率化を目的として、マウスES細胞および胎子線維芽細胞に対し、TSA処理がヒストンH2A.Zの動態に及ぼす影響について検討した。その結果、いずれの細胞においてもTSA処理によりアセチル化ヒストンH2A.Zの増加がみられたが、ES細胞においてのみヒストンH2A.Zがクロマチンから減少することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、本研究課題の初年度として、体細胞と初期胚ではクロマチン構造を含む核内構造が大きく異なることに着目し、SCNT胚におけるヒストン構成、特にヒストンH2A.Zについて検討した。その結果、受精卵とSCNT胚では、ヒストンH2A.Zの動態が大きく異なること、さらに、脱アセチル化阻害剤であるTSAにより、ヒストンH2A.ZがSCNT胚から除去されることを初めて見出した。本年度は、ヒストンH2Aバリアントに対するTSA処理の影響について解析を進めた。その結果、ヒストンH2Aバリアントの中でもH2A.ZのみがTSA処理に対して反応することが示された。本成果は、SCNT卵子におけるTSAに対するヒストンバリアントの応答には極めて高い選択性があり、リプログラミング改善効果の作用機序の一端を示す極めて重要な知見として、予想を上回る足がかりが得られたと考えられる。さらに本年度は、ドナー細胞に対するTSAによるヒストン構成の人為制御についてマウスES細胞および胎子線維芽細胞を用いて検討した。その結果、いずれの細胞においてもTSA処理によりヒストンH2A.Zのアセチル化が増加したが、ES細胞でのみクロマチンから除去され、TSAに対するヒストンH2A.Zの応答は細胞依存的であることが示唆された。また、3D-FISH解析については、マウスES細胞におけるOct3/4遺伝子座とそれが位置する第17番染色体、肝細胞特異的Tdo2遺伝子座と第3番染色体、それぞれについて肝細胞分化誘導過程において行い、Oct3/4遺伝子座は分化状態にかかわらず染色体テリトリー内での位置に変動はなく、Tdo2遺伝子座は肝分化にともない染色体テリトリーからループアウトする現象を見出した。これらの成果は、クローン研究やiPS細胞研究におけるエピジェネティックな人為制御を図るうえで、重要な知見をもたらすものである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果より、体細胞核移植卵子におけるヒストンH2A.Zの挙動がリプログラミングの過程で大きく影響している可能性があること、クローン胚の発生能力獲得におけるTSAの効果にはヒストンH2A.Zの除去が関わっている可能性があることが示された。これらの結果は、核内高次構造の人為制御技術がリプログラミング誘導技術の開発の足がかりになりうることを示唆しているものと考えられ、この研究のさらなる展開を図っていく。具体的には、平成25年度には、以下の研究を計画する。 1.卵丘細胞由来SCNT卵子のヒストン構成の解析 TSAによるヒストンH2Aバリアントの応答性には高い選択性があり、H2A.Zが特異的に反応することが明らかとなった。しかし、本年度の結果からは、ヒストンH2A.ZがTSAの直接的な基質であるか否かについては結論できない。そこで、GFP融合型の恒常的アセチル化ヒストンH2A.Zおよびアセチル化されないH2A.Z変異型タンパク質発現ベクターを作製している(一部作製済み)。当該ベクターを導入したES細胞を作製し、ES細胞およびES細胞をドナーとするSCNT卵子を用いて、TSAによるヒストンH2A.Zのクロマチンからの除去機構について検証する。 2.ドナー細胞の核内高次構造の人為制御 3D-FISH解析については、Nanog遺伝子、Sox2遺伝子と第6番染色体、ヒストンH2A.Z遺伝子と第3番染色体との組合せについて、DNAプローブとペインティングプローブを作製する。ES細胞と卵丘細胞について、3D-FISH解析条件の構築を行う。さらに、ES細胞あるいは卵丘細胞をドナーとするSCNT卵子について3D-FISH解析を行い、TSA処理によるリプログラミング過程の変動を解析する。それらのデータを活用し、最終的に、核内高次構造やクロマチンリモデリングの制御を介した初期化誘導技術の開発をめざす。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題は、幹細胞・発生工学研究、染色体研究、クロマチン工学研究の3つの要素から構成されている。次年度の研究費については、免疫組織学、in situハイブリダイゼーション、遺伝子発現解析、タンパク質発現解析など、ドナー細胞やクローン卵子における遺伝子発現を解析するための抗体やFISH用プローブ、オリゴヌクレオチド、分子生物学的研究試薬として使用する。また、次年度は、発現ベクターコンストラクトの作製等を計画しており、ES細胞への遺伝子導入に係る分子生物学的研究試薬、ES細胞の培養液・ウシ胎子血清等の培養試薬等として使用する。また、受精卵や体細胞クローン胚を用いた解析を実施するため、実験動物マウスならびに飼育管理経費として使用する。ただし、実験動物の使用については、上記項目に則り、最小限にとどめるように努める。また、次年度に使用する予定の研究費として、11,010円を計上した。当該研究費については、本年度の研究計画の中で上記の使用目的において適切な物品の調達には額が満たないことから、研究費の有効かつ十分な活用を鑑み、次年度の研究開始にあたり使用する物品費に組み込む予定である。 本研究においては、取り組み課題となる3つの研究領域について、それぞれのエキスパートが組織の枠を超えて連携することにより、学際領域を開拓していくことを主眼としている。円滑に研究を遂行するために、会合による研究進捗状況の確認や情報交換を行うための旅費、ならびに研究成果発表などの旅費として使用する計画である。
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