硫化水素の消化管機能制御機構に対する役割を明らかにするために,腸管クロマフィン細胞モデルであるRIN-14B細胞を用いて硫化水素の作用を検討した.硫化水素ドナーのNaHSの適用で,RIN-14B細胞の細胞内カルシウム濃度は上昇し,この効果はTRPA1の活性化による細胞外からのカルシウム流入によることが示された.NaHSによるTRPA1活性化は,RIN-14B細胞からカルシウム依存性の5-HT放出を引き起こすことも明らかとなった.この放出作用は,還元剤のDTTで有意に抑制されたが,より還元力が強いが膜透過性が低いTCEPでは抑制されなかったことから,硫化水素の作用点はTRPA1の細胞内ドメインにあることが示唆された. 内因性に産生された硫化水素は,腸管神経叢の知覚神経などに作用し,消化管運動を調節している可能性がある.そこで,神経モデル細胞であるPC12細胞を用いて,神経系細胞における内因性硫化水素産生について検討した.PC12細胞では,硫化水素合成酵素のCBSとAST・MSTの発現が認められたが,CSEは検出されなかった.さらにCSE及びCBSによる硫化水素産生は認められなかった.一方,AST・MSTによって硫化水素が産生され,この反応はAST阻害剤のアミノオキシ酢酸とアスパラギン酸によって抑制された.AST・MSTによる硫化水素産生は,pH8.5付近にピークをもつベルシェイプ状のpH依存性を示した.ミトコンドリアのpHは細胞質より高く8.0前後であることや,AST・MSTはミトコンドリアに多く発現していることから,PC12細胞における硫化水素産生部位として,ミトコンドリアが重要な役割を果たしているのかもしれない. 以上の結果から,腸管組織の神経系細胞は硫化水素によって反応を引き起こすとともに,硫化水素を自ら産生することで,消化管機能の制御を行っている可能性が示唆された.
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