1.新生仔ラット及びマウスより脊髄を摘出し,脊髄反射電位として姿勢の制御などに関与する単シナプス反射電位(MSR)と,痛みの伝達経路を反映する遅発性前根電位(sVRP)を記録した.ラットとマウスから記録されたMSRとsVRPの電気生理学的性質を比較したところ振幅の大きさと潜時に有意な差は認められなかったが,刺激強度依存性に違いがみられ,マウスの方がより弱い刺激強度で反応が最大に達した. 2.鎮静・鎮痛薬として使用されるα2作動薬キシラジンとデクスメデトミジンの反射電位抑制効果の力価にはラットとマウスの種差は認められなかった.一方,デクスメデトミジンのMSR抑制に対して,α2拮抗薬であるアチパメゾールはラットでは部分的に回復させたが,マウスでは効果を示さなかった. 3.セロトニンは,MSRよりもsVRPをより強く抑制したが,その力価はラットの方がマウスよりも強かった.ラットにおける抑制効果は,5-HT2A拮抗薬であるケタンセリンで拮抗されたが,5-HT3拮抗薬トロピセトロンは効果を示さなかった.内因性セロトニン放出薬のパラクロロアンフェタミンも,ラットとマウスの反射電位を抑制したが,ラットではsVRPよりもMSRを強く抑制し,マウスではsVRPの抑制はほどんと見られなかった.ラットでの抑制作用はケタンセリンとトロピセトロンで減少した. 以上の結果から,ラットとマウスの脊髄痛覚情報伝達経路には電気生理学的な特徴に差があること,またα2作動薬の効果に種差があることが示された.これらの違いが,鎮痛・鎮静薬の効果の種差の原因に一つになっているのかもしれない.また,外因性に投与したセロトニンは,内因性に放出されたセロトニンとは異なる受容体に作用し,脊髄の痛覚情報伝達に影響を与えている可能性が示唆された.
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