研究概要 |
多能性幹細胞を用いる再生・細胞医療は、アルツハイマー病、プリオン病などの難治性神経変性疾患の治療法として期待されている。MSCは末梢から移植しても神経病変部に走化するという特徴を有するが、その機構は殆ど判っていない。そこで本研究では、MSCの神経変性疾患病変部への走化に関わる分子群を同定して、走化機構を理解することを目的とした。 平成23年度は、プリオン感染動物の神経病変部(脳内)へMSCが走化する際に関与するケモカイン、サイトカイン、およびそれらのレセプターを同定するために、トランスウェルを用いるin vitro走化試験およびプリオン感染マウス脳に移植したMSC上でのレセプターの発現を解析した。その結果、MSC上に発現するCCR3、CCR5、CXCR3、CXCR4、およびそのリガンドとの相互作用が、MSCの神経病変部への走化に関与することを明らかにした。 平成24年度は、臍帯静脈上皮細胞を用いて、MSCが血管内皮細胞を通過して脳実質内に移行する機構を解析した。プリオン感染脳乳剤を抗CCL5抗体、抗IL-1b抗体、あるいは抗TNF-a抗体で処理すると、臍帯静脈上皮細胞を通過するMSCが減少した。臍帯静脈上皮細胞をプリオン感染脳乳剤で刺激すると、ICAM-1, VCAM-1の接着因子の発現が増加するが、抗CCL5抗体、抗IL-1b抗体、あるいは抗TNF-a抗体で処理したプリオン感染脳乳剤で臍帯静脈上皮細胞を刺激するとICAM-1の発現が認められなくなった。従って、CCL5, IL-1b, TNF-aなどのサイトカイン、ケモカインが血管内皮細胞を刺激して接着因子の発現を増加させることが、MSCの血管内皮細胞の通過に関与することが示唆された。 以上のように、本研究では、脳実質内、および血管から脳実質へのMSCの走化に関与するサイトカイン、ケモカインの一端を明らかにした。
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