研究課題/領域番号 |
23658240
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三浦 智行 京都大学, ウイルス研究所, 准教授 (40202337)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 相同組換え / ウイルス / エイズ / SHIV / 動物モデル / 感染症 / 微生物 |
研究概要 |
本年度は、新しい組み換えウイルス作製システムの基盤となる相同組み換え現象を効率的に起こす為の最適条件を明らかにすることを目的とした。 1)重複領域の長さ:これまでに500bp程度の重複領域があれば相同組み換えを起こすことを確認しているが、最低どのくらいの長さが重複していれば組み換えウイルスが生じるのか、また相同組み換えを効率的に起こす最適な重複長が存在するかを新世代SHIV-NL-DT5Rをモデルとして種々のプライマーを用いて増幅したPCR断片を組み合わせることにより見極めたところ、50bp程度の重複領域があれば相同組み換えを起こすことを確認した。 2)重複領域の位置:種々のプライマーをデザインすることにより、相同組み換えに最適な重複領域の位置を検討した。また、生じた組み換えウイルスのシークエンス解析によって、最適な組換えポイントを推定した。モデルケースでは、HIV-1の異なる亜種間(クレードBのバックボーンにクレードCのenv領域を組み込む)での組換えに最適な組換えポイントを明らかにした。 3)重複領域の相同性:組み換えウイルスの作製では必ずしも相同性が100%ではないウイルスゲノム断片同士を組換える必要が生じる場合が多い。この為どの程度の相同性があれば組み換えウイルスが生じるかを実験的に確認したところ70%程度の相同性で可能であった。 4)遺伝子導入細胞:この現象は、現在、C8166-CCR5細胞株でのみ確認されているが、他の細胞株でも可能か検討したところBHK細胞でも可能であった。また、エイズウイルス研究では、より生体条件に近いと考えられる末梢血単核球(PBMC)での解析がよく用いられるので、PBMCを用いて直接組み換えウイルスを作製できるか検討したが、組換えウイルスは出来なかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、新しい組み換えウイルス作製システムの基盤となる相同組み換え現象を効率的に起こす為の最適条件を明らかにすることを目的とし、重複領域の長さ、重複領域の位置、重複領域の相同性、遺伝子導入細胞について検討し、今後の実験デザインに役立つ有意義な結果を得ることが出来た。当初の実験計画が妥当なものであったことから、本年度は計画通り順調に研究が進展しており、特に大きな問題はなかった。
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今後の研究の推進方策 |
作製したウイルスの多様性が期待したように保持されているか確認する。まず、PCR法によって増幅した組み換え前のウイルスの遺伝子断片の遺伝的多様性をシークエンス解析により確認する。充分な多様性を有する遺伝子断片を相同組み換え現象により別のウイルスバックボーンに組み込む。作製したウイルスの該当する遺伝子領域の多様性をシークエンス解析によって明らかにする。組込み前と後で多様性を比較する。これにより本実験系で多様性を保持した組み換えが実際に行われているか明らかになる。この時、使用する細胞、遺伝子導入法による影響も検討する。シークエンス解析にあたっては限界希釈して1コピーからPCR法により増幅したサンプルの塩基配列をそれぞれ10クローンずつ程度明らかにし、分子系統解析によって組み換えの前後で多様性が保持されているか(パターンA)、一部のポピュレーションが選択されていないか(パターンB)確認する。パターンAなら期待通りである。パターンBの場合は、実験ごとに異なるポピュレーションが選択されるのか、常に同じポピュレーションが選択されるかを明らかにする。以上の実験で蓄積した情報に基づいて最適な組み換えウイルス作製条件を確立する。更にエイズウイルス以外の他のウイルスへの応用について検討する。当研究室では、本来RNAウイルスであるデングウイルスについてそのcDNAを基盤としたウイルス産生系の開発を行っているので、この系における組み換えデングウイルスの作製への応用を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度繰り越した分も含めて、細胞培養のための培養液や培養プレート、培養ピペット、およびDNA断片の増幅のためのプライマーの合成や複製酵素等、in vitroの実験に必要な試薬類やディスポーザブル器具の購入に使用する予定である。また、研究成果を日本ウイルス学会と日本エイズ学会で発表するための旅費として使用する予定である。
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