研究課題/領域番号 |
23658240
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三浦 智行 京都大学, ウイルス研究所, 准教授 (40202337)
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キーワード | 感染症 / 組換えウイルス / エイズ / SHIV / HIV-1mt / デングウイルス / ダニ媒介性脳炎ウイルス |
研究概要 |
HIV-1はヒトとチンパンジーにしか感染しないことから、サル免疫不全ウイルス(SIV)とHIV-1のゲノムの一部を組換えたサルヒト免疫不全ウイルス(SHIV)をエイズのモデル系として開発してきた。これまでに作製されたSHIVは分子クローン由来であるが、HIV-1は元来、多様性を保持した変異集団であり、このことがウイルスの適応度を高める要因の一つと考えられる。また、HIV-1の感染にはCD4の他にケモカイン受容体が必要であり、CCR5を利用するR5型ウイルスが、感染伝播と感染個体内での病態に重要なウイルスと考えられるが、既存のSHIVはCXCR4を使用するX4型ウイルスが多かった。一方、全ゲノムの93%がHIV-1で構成されサルに感染しうるHIV-1mtが構築されたが、このウイルスはX4型であり、サルにおける増殖能はまだ不十分である。そこで本年度は、サル個体内で馴化させることにより増殖能が向上し、遺伝的多様性を蓄積したR5型SHIV-MK38のenv領域をHIV-1mtに組み込んだ新規ウイルスDT5R-MK38を相同組換え法により作製した。遺伝子解析を行ったところ、DT5R-MK38の組換えポイントは重複領域内に複数箇所存在し、SHIV-MK38の多様性の一部を保持していた。独立に作製したウイルス間でMK38の多様性の異なる系統を継承することがわかり、それらを混合することにより、元のMK38の遺伝的多様性を再構築できることがわかった。一方、フラビウイルス属に属するダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)とデングウイルス(DENV)について、DNA-based 感染性cDNAクローンの構築ならびに宿主相同組換え機構を用いたリバースジェネティクス系の開発に成功したことから、今後のTBEVおよびDENV研究に広く貢献できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は、新しい組み換えウイルス作製システムの基盤となる相同組み換え現象を効率的に起こす為の最適条件を明らかにすることを目的とし、SHIVやHIV-1mtの実験系を用いて重複領域の長さ、重複領域の位置、重複領域の相同性、遺伝子導入細胞について検討し、今後の実験デザインに役立つ有意義な基礎情報を得ることが出来た。これにより組換えウイルスの構築に関して必要とされる条件の最適化ができたことから基本的な相同組換えによる組換えウイルス作製技術を確立することができた。本年度は昨年度確立した技術を適用してより有効な新規HIV-1mtを短期間で作製できること、また、エイズウイルス本来の特徴である親株の多様性を保持した状態で組換えウイルスを構築できることを実証した。更に、エイズウイルスだけではなく、ダニ媒介性脳炎やデングウイルスといったフラビウイルス属の病原性ウイルスに対しても、本組換え技術が有効であることが確認できたので研究当初の目的はおおよそ達成できたと言える。しかし、フラビウイルスへの本組換え技術の応用にあたって、デングウイルスを用いて実験をはじめたことから、DNA-basedの感染性クローンからのウイルスの産生効率が極めて低いことが明らかとなり、実験遂行に困難を来してしまったことは予想外の障害であった。このため、次年度への繰越を申請し、DNA-basedの感染性クローンからのウイルスの産生効率が非常によいことが明らかとなったダニ媒介性脳炎ウイルスを用いてウイルス組換え技術の最適化と実証実験および学会での研究発表を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
エイズウイルスに関しては、本研究で確立した相同組換え法を適用して引き続きよりよいSHIVやHIV-1mt等の組換えウイルスを構築する。具体的には、セカンドレセプターとしてCCR5を使用し、中和抵抗性であり、親株の多様性を反映した組換えウイルスを構築する。また、これまでよく解析されているが、世界的な流行株ではないサブタイプBだけではなく、世界的に最も流行しているサブタイプCの外被蛋白遺伝子を持つ新規SHIVやHIV-1mtの構築へも応用する。また、本年度に、エイズウイルスに加えて、フラビウイルスに属するデングウイルスのDNA-based感染性クローンにおける組換えウイルス生成効率の解析を行い、その結果を基に組換えデングウイルス作製条件の最適化を行うとともに日本ウイルス学会において発表する予定であった。しかし、解析の結果、デングウイルスのin vitroにおけるウイルス複製能自体が非常に低レベルであり、解析が困難であることが明らかとなった。このため年度の途中で計画を変更し、同じフラビウイルスに属し、よりin vitroでの複製能の高いダニ媒介性脳炎ウイルスを用いて組換え効率の解析を行うこととした。このため、ダニ媒介性脳炎ウイルスを用いた組換え効率の解析と日本ウイルス学会での発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとした。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度へ繰り越した分で、相同組換え法を適用して引き続きよりよいSHIVやHIV-1mt等の組換えウイルスを構築する。また、フラビウイルスに属するダニ媒介性脳炎ウイルスやデングウイルスについても新規組換えウイルス作製技術の最適化を行い今後の研究に役立つ技術へと磨きをかける。これらの実験を遂行するにあたって必要な以下の実験、すなわち、細胞培養のための培養液や培養プレート、培養ピペット、およびDNA断片の増幅のためのプライマーの合成や複製酵素、細胞に遺伝子導入する為の試薬、ウイルス感染細胞中のウイルス抗原を検出するための抗体、作製した組換えウイルスの塩基配列を解析するためのシークエンス試薬、培養上清中に放出されたウイルスを検出するためのTaqManキット、ウエスタンブロッティング用試薬等、in vitroの実験に必要な試薬類やディスポーザブル器具の購入に使用する予定である。また、研究成果を日本ウイルス学会、日本エイズ学会、日本獣医学会等で発表するための旅費として使用する予定である。
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